『1990』

あの時 君と僕は電車を待ってたんだ
二人で 首をうなだれて みじめな顔をして
それが何を意味しているかなんて
関係なかったんだ たぶんね
彼女が君を選んだことも
僕のことは始めから気にも止めてなかったことも
わかってたはずなんだ
どうして 君がそんな顔をしなきゃいけないんだろう
本当は 僕がそんな顔をしなきゃいけないんじゃないか?
さっきから 君は一度も顔を見せてくれないんだ
とうにくれてしまった空が あんまり明るくて
きっとこのままだと 雪が降るんだね
こんな気持ちのまま 僕たちは離れていってしまうんだね
風が強く吹くたびに君は髪をかき上げる
肩のカバンがずり落ちてくるたびに僕は君を
僕は、君を、見ていたのに。
ほんの少し甲高い音を立てて
蒼いラインのはいった電車がはいってくる
滑り込むようにとはよくいったものだなぁと感心する
風が前髪を煽る
電車が寸分たがわず停車位置に止まろうとした瞬間
「こんなこと 誰も 望んでなかったのに」
ブレーキの音にかき消されるように、
君の声が聞こえた、ような、気がした。