髪を切りに行こう

髪の毛を伸ばし始めたのは
なんてことはない、君がひとこと
「ロン毛にしたらどうなるかみてみたい」
そう、いったからで
このくそ暑いのに僕はしばらく
髪の毛を切らないでいることにした
耳の上辺りにかかる髪の毛がうっとうしくて
何度も切っていいか聞いたけど
君はいつも笑って
「だーめっ」といっては舌を出した
当然僕の伸びた髪の毛は周囲には不評で
上司からはうるさくいわれるし
同僚はバカにして笑うし
いいことなんかひとこともない
ただ君がひとこと「切っちゃえば?」と
いってくれるのをひたすら待っていた
先月床屋に行くときは君が後ろからついてきて
ばっさりやったりしないかずっとみてた
「ロン毛のオトコなんか、気持ち悪くないか?」
そう聞いてみたけれど
やっぱり君は笑うばかりだった
君がフラれたと電話をかけてきた
相手はどうやらロン毛だったらしい
うまく気持ちが伝えられないものだから
身近にいる僕にイメージを重ねたかったらしい
涙声で君は僕にいった
「明日、髪、切りに行こう」
君に引っ張られて入ったのは
君がいつもいく美容院
二人並んで髪の毛を切る
なんだかとても間抜けな光景で
僕たちは笑いをこらえるのに必死だった
じゃきじゃきというハサミの音を聞きながら
僕は フラれた時になぜ髪の毛を切るのか
なんて考えてみた
気持ちごと捨ててしまいたいからとか
新しい自分になるとか
きっと そんなんじゃないな
「ただうっとうしかったんだろ?」
「わかってるくせに」
やっぱりね
そんなことだと思ったよ
妙にすっきりとした僕たちは
人の多い商店街を歩く
「うっとうしかった?」
「わかってるくせに」
こんなことくらいで君の気持ちが晴れるなら
いっくらでもつきあってあげましょう?
僕のことなんかまるでお構いなしで
いつも僕を振り回してばかりだけど
それでも君が笑っていてくれるなら