補完

アルバムを開けると
そこに笑っているのはひとりめの僕
僕が知らない過去を持つ
僕と同じ 顔をした人
先月 線路に飛び込まなければ
僕が ここにくることはなかったのに
誰かの代わりになんかならなくてもよかったのに
ひとりめの僕は 父さんからも母さんからも
十分すぎるくらいの愛情をもらってたって
少し右あがりの文字でノートに書いてあった
そしてそれがとても負担になっていたことも
ふたりめの僕は 笑うことも逆らうことも
まして自分の夢を持つこともままならず
父さんと母さんの願ってたとおりの人生を
歩いていかなきゃいけない
僕は少しだけ僕を恨むよ
僕は少しだけ僕をうらやむよ
ガラス越しのひとりめの僕は
たくさんのチューブにぶら下がって
まるでこれじゃあやつり人形
がんじがらめの僕と
きっとそんなに変わんないんだろうな
「バックアップデータの復旧の準備ができました」
必要な記憶をひとりめの僕からもらったら
また 無味乾燥な日々が始まる