訳も知らないで

すれ違うひとも少ないまま
いつの間にかできていた広い広い通りを
ひとり
夕方の熱が冷めかけた頃に
身体をあおる風
たぶん数年もしないうちに寂れてしまうであろう建物を
スクロール
自動ドアを抜けてエスカレーター
かけ上がるでもなく手すりにもたれ
摩擦の存在を感じ運ばれる
可視光線だけが切り取られた窓をナナメに
紙束の並ぶ空間を一往復 二往復
意味のない言葉ながめ がんじがらめの映像読み解き
他人との距離があいていく
天文学的加速度で むこう端にも姿が確認できません
天の声 有線放送 空耳 幻聴 電波
を受信

ああ、人を殺したいな
思いつくすべての方法についてその正当性を証明せよ
と問い掛ける
天に 有線放送の線の先に 空耳の声に 幻に 電波に乗せて
送信
完了
本棚にタオルを引っかけて座るようにして逝った少年と
親友に切ってもらったロープで逝った彼と
10カウントくりかえし空を飛んだ君と
何もできずにただ漫然と日常をやりすごし
昨日よりも少し痩せた僕を 比べるにはなんだか
僕になにか足りないような気がして
気がして

何年も来ただけじゃないか
そしてここにはもう誰もいなくなってしまったのです
もう誰も
(そう、僕の目の前を通りすぎるウサギも
無理やりな欲望を救ってくれるネコも)
ぐるり一周 二周
新たな人の気配を探し バターになる前にやめなくては
真後ろに立ったなにかに気づき その存在を確認する前に
鳴る指
くにゃり
身体が折れ曲がり立てなくなるのです もう二度と
助けてという言葉も思いだせないままに