病院

同じクラスの友だちが虫垂炎で入院したと先生が話していたのを
母親と夕飯の買い物にいった帰りに思い出して
一人彼を見舞うことにした
週末の薄暗い病院の廊下は子どもが一人で来るようなところではない
エレベーターに閉じこめられたらどうしよう
こんなところ来るんじゃなかったかな
不安が最高潮になるころ病室につく
思いつきで来たのだから見舞いの品もなにも持っていない
せめてジャンプでも買ってくるんだったと思ったが
パイプ椅子の横の台にはもうじき最新号が出るはずのジャンプが置かれていた
ぎこちなく会話をし 滅多に見ることのない手術の跡を見せてもらい
「なにしに来たの」と言われる前に帰ることにした
 
二週間後
ふたたび学校に来ることとなった彼から
見舞いに来た友達へ渡すものがあるからと
並ばされる
僕は一瞬考えたが並ぶのはやめた
待っているクラスメイトの数が減り
小さな紙袋がなくなろうとしているとき
「俺のぶんは?」
どっとわく教室
「えーなんだよー。ジャンプとかマンガとかいっぱい持ってったじゃんよー」
彼のぶんだけなかったらしい
数を数え間違えたという彼 申し訳なさそうにしていた
それを見て並ぶのをやめてよかったと思った
不用意に動いて失敗してばかりの自分が
初めて空気を読んだ瞬間だった
(そして僕が顔を見にいったことなど彼はすっかり忘れていた)