カテゴリー: 2011

大きな木の下のふたり

君が 会いに来た   僕に
連絡もなしに   突然
駅で待ちあわせて、 大きな木の下
光 漏れる  ベンチで
なに話すわけでもなく
黙ったり   ふふ、と笑ってみたり
思い出したように   昔の話とか
   あの絵、全部売れたんだっけか
   風邪ひかなかった?
   ふたりして ひどい風邪ひいたじゃん
   忘れたよ そんなの
訪れた 静けさ 風の音   さわさわと枝のゆれる
見上げると 細かい光    まぶしくは、ないけど
目は開けられない
だめかも
君は 言うと うつむいて、  そのまま
泣いてる?  聞いても  返事はなく、
風の音に まぎれて
君の 嗚咽が きこえるだけ

脱皮

死んでしまったぼくから脱皮したぼくはまるで出来の悪いホラー映画のような歩きかたで外に出る。誰も気づかない。死んでしまったからだ。嘘だ。はじめから誰にもこの存在は知られていない。必要のない人間。だから死んだのだ。ゆらゆらと歩く真っ暗だったはずの街にはイルミネイション。いつか見た写真のように、フィルターをかけた光がぼくの目に入ってくる。キラキラするものは僕だって好きだった。一人でいたって。誰といなくても。今年も本当はこうやって見に来るはずだった。一人で。一人で。もう、そんな季節になったのか。嗚呼。
ぼくが脱皮した死んでしまったのぼくの身体は今ごろベッドの上にだらりと垂れているだろう。生気を失った形で。しまっちゃうおじさんが回収に来るまで。嘘だ。はじめから生気などなかったし、この世にはそんな人はいない。何故ならぼくは必要のない。だから死んだのではないのか。いつか君に会いたい。あって好きだといいたい。違う。ごめんねといわなくてはならない。つきまとうようにして。うしろから見つめていて。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。何度いえば許してもらえるだろう。
そして僕は今こうして光があふれる夜の街をさまよう。誰も気づかない。気づかないフリをするのは厄介事にかかわり合いになりたくないからだ。正しいと思う。僕は誰にも気づかれたくない。君にも。あいつにも。嘘。嘘だ。全部。全部嘘だ。ショウウインドウに飾られたマネキンに恋をしようか。君ではないからそれは出来ない。レコード屋の店員も、ファストフードの店の人も、掃除の人も、ほらそこにいるぼくの知らない誰かと歩く君も。
君も。
ぼくの知らない誰かと。
歩く。
……歩く?
ぼくの知らない誰かと?
君が?
嘘だ。嘘だ。
君が笑っている。ぼくの知らない誰かを見つめて笑っている。僕を見て笑うのとは違う笑い方で君が笑う。
(せけんではこれをしつれんとよぶのだそうです。まだはじまってもいないのにぼくはもうしつれんしたというのですか)
ずるりと垂れた手の先から滴り落ちるのは雨。赤い雨。手首から。ひじから。意外と痛いのです。だいぶ我慢しているのです。死んでしまったぼくから脱皮したはずのぼくは生まれ変わることなくさっきまでの痛みをしつれんのいたみとかんちがいしたままこのまちをさまよっていつかちからつきてたおれてしまうのでしょうかそしてこれはこいなのでしょうかちがうのでしょうか。
とっぷうにのってぼくのだらりと垂れていたそとがわが飛んできました。ぼくにいったいどうしろというのでしょうか。ふらりとめまいがして気がつくと泥だらけの状態で道に倒れていました。またもとどおり。これでまた一からやり直し。やっと死んだのに。死ぬことが出来るのはリア充だけと誰かはいいました。ぼくは死ぬことすらできない。
そんなぼくを君は見つけて
ちかよってきて ぼくの知らない誰かと
笑顔で手をさしのべてくるのです。
大丈夫ですか? と
だいじょうぶです(痛いけど)
だいじょうぶです(一人だけど)
だいじょうぶです(死に損なったけど)
君のその姿があればまた一日生きていくことができるでしょう。
もうどうにもならないのだけれど