2016年3月 4日
ただそれだけの
駅までの道はいつも二人で黙って歩くだけだ。 距離だって少しあいてる。次の日の約束は一度もしたことはない。毎朝、駅で見かけると慣れない笑顔を作って、互いが互いを気にしながら、だけどなにごともなく一日を過ごす。
本当は好きなのに、言ってしまうとダメになりそうで、偶然ふれた手の甲を、まるで宝物を大切にするようにそっとなでるのだ。いつ終わってもいいように。
2016年3月 3日
本当は知ってる
僕と遊ぶのが目当てじゃなくて
出されるおやつが目的だということ
ゲームの機械とか
漫画とか
別にそれでいいんだよ
僕の家に来てくれればそれで
僕のほうなんか一度も見なくても
一言も会話しなくても
母さんが安心して
みんながうちのゲームを気に入ってくれて
僕は友達と遊んだ気になれればそれで
2016年2月27日
2016年2月26日
a normal life
野球もサッカーも好きじゃない
走るのは得意じゃない
何かをすれば誰かの邪魔になり
話せば言葉づかいで眉をひそめられ
仕草も同じだ
誰も同じ人はいない
本を開いて音を遮断する
音楽で視界を遮断する
夢は夢だ
展望ではなく願望
寝癖は直す
口は開かない
息はひそめる
気配は消す
生きていることの罪悪感
なりたいものは普通の人
大半の女子がする
大半の男子はしない
僕のすることは
気持ち悪いのだそうです
気がつかなくてもひとり
気がついたら一歩さがる
誰かに触れたことはない
触るのは自分の身体だけ
血が出るくらいに擦る/洗う
全身がぼろぼろになっても
汚いよりはマシと信じる
登校も下校もひとり
教室でもひとり
僕を押しつけあうのは僕の責任
早く消えてしまわなければ
早く消えてしまわなければ
写真は一枚もない
カメラを向けられることも
うっかり写ることも
ゴミ箱に捨てられることはあっても
飾られることはない
時が経てば僕は存在しなかったことになる
取り繕う
外見も言葉づかいも
膨大な量のチャートを作り
膨大な場合わけに対応する
意思は入れてはいけない
必要なのはあらかじめ決められた結末で
僕の意思ではない
誰かの望むアイデア
誰かの望むプロセス
誰かの望む結果
僕はただ介在しただけなのだ
賞賛は他の誰かの手にある
朝
かろうじて立つ電車の中で
自分の周りにだけ隙間が空くことに気がつく
潰されることはない
苦しくもない
与えられた良いことといえば
それくらいのものだ
2016年2月15日
渦を巻く言葉
才能がないとわかっていても、できる範囲ですこし背伸びして前よりもいいもの、って思ってあれやこれややる。
時々、やはり、素養とか才能とかがないとダメなんだなあ、とわかることがあって、じゃあなんのためにそれをやるかって話になる。
それに対してなにもできることはないとわかると、できてたこともできなくなる、というか、やりかたがわからなくなる。
背伸びしすぎだったんだろうか、とか、そもそもそんなことやろうと思わないほうがよかったのではないか、とか。
そもそも論は根本的なところまで戻って話をしてしまう。なにがしたいのか、なぜしたいのか、自分が必要なのか不要なのか、存在の可否とか。
楽しくはない。仕事でもないのに楽しくないことを無理矢理やる必要なんかない。わかってはいるけれど、うまくいかないな。
いっそのことすべて止めてしまえばいいのかもしれないと思ったりもする。
2016年2月12日
four
春
肌が
離れる
話半分の
夏
涙は
流れる
懐かしさ
秋
愛は
飽きて
諦める時
冬
二人
震える
不幸せを
離れていく
名もない心
集めて離す
不実を責め
はらはらと
泣き崩れ
明日を
ふる
時
季節
過ぎる
ぐるりと
輪のように
ダッシュ
夜の誰もいない駅からの帰り道電柱
から電柱まで灯りをたどるようにダ
ッシュして止まって ダッシュして
止まって 止まるたびに振り返って
誰もいないのを確かめるように足音
は聞こえないのに人の気配が する
ような 気がするだけ なのにまる
で気でも違えたみたいな顔をされる
2015年6月25日
指
ゲームセンターの占いの機械に
二人の誕生日を入れて質問に答える
「あなたたちの関係は?」
友達と恋人の選択肢で手が止まる僕
迷わず恋人のボタンを押す君
今だけね、の声は聞こえないふりをした
いつも良くない結果しか出なくて
しかたないよねと笑う
君も僕も こうすることが
いつか終わることも知っているから
人のいないときだけ
「恋人つなぎ」で歩いて
僕のこと そう思っていてくれるの?
って聞いても いつも笑ってごまかすんだ
帰るところを確保して
ダッシュで会いに来るのは
本当は もう やめにしてほしい
絡めた指を離す間際 泣きそうになる
その瞬間なんか君は知らないだろう
追いつかないってわかってて
追いかけるのは嫌なんだ
2015年6月17日
泡
外だけがやたら明るくて、校舎の玄関は真っ暗に見える。それは決して気持ちだけの問題ではないと思った。
「キモ」
ひとことだった。本当にこれだけ。ずっと悩んで、ようやく決心がついて。最初で最後のチャンスだと思って言った「好き」という告白の返事が「キモ」。
聞こえた瞬間終わった、と思った。明日になれば学校中に広まるだろう。罵られるのは慣れてる。嫌われるのも。だけど、彼と話もできなくなるのだけは嫌だった。やっと普通に話ができるところまで来たのに。なんでこんなこと言おうと思ったんだろうか。してもしきれない後悔。
「帰るわ、じゃな」
彼は面倒くさそうな顔のままローファーに履き替え、玄関を出ていった。安っぽいドラマのようだと思った。持っていたかばんがやけに重い。
あれ以来、ただの一言も話すことなく別の道を進んだ。卒業式だって目も合わせなかったはずだ。
2015年4月27日
帰郷(あるいは黒塗りにされたドローンのための)
首相官邸にドローンが落ちた日、繁華街では若者が騒ぎ、保育園にはお迎えの親が帰宅を急ぎ、僕は彼女を思って、永遠に未読のままのメッセージを送る。
ラジオからは大江千里が流れ、DJは似てると一言で済ませた。
10年どころでは済まされないくらいに時は過ぎ、僕は長い余生を彷徨い、彼女に打ち明けることもなく離れてしまった。
同窓会名簿は転居先不明の印がついているだろう。誰もどうなったか気にも留めないだろうことは離れる前からわかっていたことだ。
主義主張をしたところで、共感します、と言われてしまえば、それは何の意味も持たないことを意味する。いいねがいいのか悪いのかはっきりしないのと同じだ。聞きましたの保護者印ほどの効力しかないことを知っているのは受け手だけで、自らが発信側になった時に受ける同じことには理不尽だと憤るのだ。
トラックレースのように同じ場所を回るだけなのか、螺旋のように少しは先に進んでいるのか、誰もわからない。 振り返った時の景色の違いはおそらく変わらず、変わったのは自分の目線の位置と押し込められた立場のほうなのだ。
生きてゆく。生きてゆく、死にかたもわかっていて、後は実践するだけだが、生きてゆく。
彼の言葉は永遠に伝わることはなく、ドローンの形の奇妙さだけがクローズアップしてゆくだろう。
車で街中に突っ込むこと、人混みでナイフを振り回すこと、誰かを傷つけること、誰でもいいというのは自分のいる位置よりも相対的に下である可能性、無理解、気持ち悪いと一言で片づけること。
なにも変わらないまま誰もが思うあの頃から何年か経ち、僕たちはそれぞれの場所で淡々と生きていく。