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1996年12月 1日

『1990』

あの時 君と僕は電車を待ってたんだ
二人で 首をうなだれて みじめな顔をして
それが何を意味しているかなんて
関係なかったんだ たぶんね

彼女が君を選んだことも
僕のことは始めから気にも止めてなかったことも
わかってたはずなんだ

どうして 君がそんな顔をしなきゃいけないんだろう
本当は 僕がそんな顔をしなきゃいけないんじゃないか?

さっきから 君は一度も顔を見せてくれないんだ

とうにくれてしまった空が あんまり明るくて
きっとこのままだと 雪が降るんだね
こんな気持ちのまま 僕たちは離れていってしまうんだね

風が強く吹くたびに君は髪をかき上げる
肩のカバンがずり落ちてくるたびに僕は君を


僕は、君を、見ていたのに。


ほんの少し甲高い音を立てて
蒼いラインのはいった電車がはいってくる
滑り込むようにとはよくいったものだなぁと感心する

風が前髪を煽る
電車が寸分たがわず停車位置に止まろうとした瞬間


「こんなこと 誰も 望んでなかったのに」


ブレーキの音にかき消されるように、
君の声が聞こえた、ような、気がした。

1996年11月26日

空想癖

わらっちゃう                                                そ
僕がここにいなくても                    ん
世の中は静々と動いている                  な
                              風
線路に飛び込む人                      に
ビルの屋上から飛び降りる人                 笑
少女をイスにくくりつけては                 わ
       手足をひとつずつ         な
           落とし      い
て     で


そして僕は の
ここで 一人 が
途方に暮れる 好



                             さ 
いまここで 発狂しても僕は                え
僕の代わりになる誰かにすべてを託すことなく        も
すべてを託す暇もなく                   平

                          を
「こういうとき、どんな顔をしていいか わからないの」 装

目の前にいる君に聞いてみようか
僕は君を君が僕を信用しているのと同じくらいに信用しているわけじゃないように
君は僕を僕が君を好きだと思っているのと同じくらい好きだと思っているわけじゃない

たぶん、君の答えは決まっている
そしてそれは 僕の考えている以上の

感情はいつまでたっても稀薄で
愛情はそこはかとなく

適度に混んだ電車の中で
君は僕に愛を注ぎ込む
僕は君に生きてゆく支えを求める

そしてそれはすべてが虚構の世界へとなだれ込み
僕が洗いたての木綿のシーツの上で学校に行きたくないと思っては
どうしたら一番正当な理由で合法的に学校をさぼれるか考えた末の
くだらない(いや、本当にどうしようもなくくだらない)空想上の出来事

...だったらいいなぁ、と き
                                  み
電車のシートに座り                         は
つり革につかまっている君を盗み見るように              だ
そっと                               れ
                                  ?
   そーっと
                                  僕
       見つめているときに                  の
                                  知って
                見ていた夢だったんだ          い
そうなんだ                               る
     たぶん                            誰
        たぶんね                        か
                                    で
だんだん                                す
だんだん                                か
意識レベルが低下してきて                        ?
レム睡眠からノンレム睡眠へ
覚醒から幻覚へと向かう途中で僕はまた

きみを                               ダレヲ?


                 僕の一番大好きな君を
ソレハ ダレナノ?
少しずつ
   すこし  ずつ

1996年11月 2日

月齢15

月が出てるから僕たちの体は青く見えるんだと君はいう/ああそう
いえば暗いときは目の色彩を感じる細胞が働かないんだと学校で習
ったことをぼんやりと思いだしてみる/君の体はそういうわけでき
れいに蒼く光ってる/蒼白いっていうよりは青黒いって感じだなと
君は鼻で笑う/いつだってそうだ今日だってそうなんだ/さっきか
ら君は僕の髪の毛を何度も何度もなでてくれてるけどこれってどう
いうことなんだろなんて考えてみたりする/今日はまだキスはして
もらってない/世間で言うところの均整のとれたたくましい体つき
の君が男にしては何だかきゃしゃすぎる僕にはひどくうらやましい
ことのように思える/僕は君の顔の輪郭をそっと中指の先でなぞっ
てみる/こういう瞬間って何だか好きだなっていうと君はお前って
そういうのが好きなんだなって僕のことをまっすぐ見つめる/やめ
てよそういうのなんか僕が変なヒトみたいじゃないっていうと君は
決まってこう答えるんだ/だってホントのことだろ?/昨日までは
あんなに堅物だった君が眼鏡を外せば実は別人のようだったなんて
よくある話だ/だからといってここまで君にココロの中をとっ散ら
かされる理由なんかあっただろうか/いやないってこれって反語っ
ていうんだよななんて君の鎖骨のあたりを見つめながら考えてた/
考えてた/考えてた/君は僕の髪をなでるのにも飽きたのか僕の体
に指で文字を書き付ける/なんて書いたと思う?/愛してるじゃな
いよね/いった瞬間僕は君は爆笑した/君はベッドに埋まるように
して肩を震わせる/僕は君のからだの重さに辟易しながら間の抜け
たことをいったなと思い直す/そして僕が君の肩あたりにかみつい
てみようかなと思ったとき君は僕の耳元でいった/じゃそろそろ始
めましょうか/僕はそのままの体勢でリクエストする/痛いくらい
に乱暴なキスがいい/そしてそのまま夜明けまで続けてほしいって

1996年10月27日

君をむかえに大学の構内まで

一カ月ぶりの君との逢瀬は大学の構内まで
僕は車にガソリンを入れて 洗車して
君に見せちゃいけない ココロの傷は家の玄関に置いてゆく

君に会うまでには 笑顔を充填しておかないと

ココロの栄養補完計画
今日はどこまで何しにいこう?
せっかく晴れたんだ
君の笑顔を探しに あの山越えて

海の向こうには きっとシアワセが待ってる

陸橋を越えたら国道を左へ
信号を右に曲がると二つ目の交差点
君はきてるかな 君は待ってるかな
不安な気持ちは排気ガスと一緒に快晴の空へ

君をむかえに大学の構内まで
僕は元気で暮らしています
時々 君の声を聞きたくなるけど
その時は 大丈夫 ちゃんと電話するから
だから お願い 今日はゆっくりと過ぎていきますように

講堂の裏 駐車場へ向かう
君は 僕を見つけて 大きく手を広げます
僕は 君を見つけて 満面の笑顔です

車をUターンさせるまでちょっと待ってて
「久しぶり」って ちゃんといえるまで
もう少しだけ そこで待ってて

1996年10月13日

デーゲーム3

せっかくだから おべんと食べちゃおうよ
今日の唐揚げなんかいままでで最高のできなんだから
え? 心配で食べる気しない?
やだなぁ もう ゆうじくんたら ひどいよ それ

あたしだって おにぎりと唐揚げくらいなら上手に作れるよ
他の女の子らしいことなんかまるでダメだけど

いまね センター守ってるのがタカハシくん
先週のけんかの原因のひと...そう、あのひとなの
あいつさぁ 昔あたしに彼氏なんか絶対できないっていったんだよ?
だから 今日はゆうじくんのこと自慢してやろうと思って
(むこうのほうが 全然 かっこいいじゃん)
ダメダメ あいつなんか ただの野球バカなんだもん
友達がさ、全然振り向いてくれないって嘆いてたもん

あたし? あたしはねぇ...
あーいう筋肉でもの考えそうなやつってダメなの
なんか一つのことしか考えてなさそうって感じじゃない?
彼女できても大事にしなさそう みたいなさ

心配事とか、不安とかだけになりそうじゃない...なんか
ココロの中とか....うまくいえないけど

ゆうじくんは一緒にいると安心するの
ケンカもするし わがままいいあうけど
あいつなんかよりもずっといいの

(コーヒーでも買ってくるよ)
え? あ そうか
飲み物忘れてきちゃったもんね
あたしのも買ってきてほしいな おんなじやつ
うん 今日はそれがいいの

ほーんと、いい天気だなぁ

あーーーーーーーーっ!!
....ホームランだぁ....
すっごーーーーーーーい

あ〜あ あんなににやけちゃって もう
さっきまでムッとしてたくせに 何よ
あたしはあの笑顔にだまされたんだ きっと

くやしいけれど ホントのことだったんだもん

でもね 今日はタカハシを困らせに来たの
あたしを選ばなかったこと 後悔させてやるの
相手が加奈ちゃんじゃしかたないけど
でも でも。
(試合、どうだった?)
あ、おかえり 勝ったよ ラクショーだったみたい
いま来ると思うよ タカハシくん
あ、手、ふっちゃお

だからゆうじくん しっかり手をつないでいてね

1996年10月10日

デーゲーム2

何も ゆうべ あんな電話かけてくることないのに
「明日 試合 見に行くね」なんてさ
ふざけるのもたいがいにしろよな
なにが「自慢の彼氏紹介してあげる」だか
あんなオンナに振り回されてたんかな、俺

あの時 ふったのはどっちだったっけ
「好きな人ができたら紹介するね」なんて約束
まだ覚えてたなんてさ 律義なやつだよ

気分は最悪 天気は上々 風は背中から吹いてる
これで試合に負けたらシャレにもなんない

おっと 俺の打順じゃん
今日は3打数2安打3打点
鈴鹿台ファイターズのイチローと呼んで
あいつ どうせ試合なんか見てないだろ

初球はスライダー 内角低めの
ここ 苦手なんだよな

ピッチャーを睨みつけて
打球はあいつのところへ
必ず飛ばしてやる
気持ちごと吹っ飛ばしてやる

あ、いった!

1996年10月 6日

デーゲーム

今日はとってもいい天気
君が野球を見にいこうなんて
そんなこといいだすなんて
どういうつもりなんだか

河原敷きのグラウンド
シートを広げて おべんとを広げて
風が気持ちいいね
君はどこを見ているの?

バッターボックス立っているのは
僕の知らない人だった
君が指をさして ニコニコとうれしそうに
そういうことなのかな
コンタクトなんか
はりきって入れてくるんじゃなかった

もしかしてさぁ このお弁当って
僕は食べちゃまずいのかな?
妙に気合の入った感じ
・・・天気がいいなぁ
コーヒーでも買ってくるよ

戻ってくるころにはあの人はあそこにいるのかな
君は僕には見せない表情(かお)をするのかな
なんで僕はついていったのかな
なんで僕についてきてっていうのかな

お人好しもここまで来ると バカだよな

ただいま、試合はどうなったの?
勝ったのか、よかったね
あの人が近づいてくる
君は手を振る 僕は空を見上げる
あの人はにこにこしながらやってくる
ココロの準備はしてきたから大丈夫
たぶん、ね

君は僕を指さしてこういったんだ

「あ、紹介するね。こっちが自慢の彼氏のゆうじくん」

1996年9月 6日

夏の終わり

夕暮れの街
長距離バスのターミナル
やっと逢えたと思ったのに
もう帰ってしまう君を見送る

夏休みも終わりに近いせいか
いつもより人は多くて
君の小さな声は僕の耳まで届かない

  「ごめんね」

君はそういったらしいけど
うまく聞こえなかったことにしよう
最後の言葉を聞くには
まだココロの準備ができていないから

  そういえば 遊園地で食べたアイスクリームは
  ちっとも 甘くなかったね

  ここまで歩いてくるのに
  ずっとうつむいて黙ってるのもさ
  初めてだったよね こんなこと

  ついたら電話してね
  あ、でも、電話代かかるから無理しなくていいよ

  こんどはさ


ゆっくりと低い音を立ててバスがターミナルに入ってくる
気持ち悪いくらいの排気ガスが体にまとわりついて
ほかの乗客におされてふりかえる余裕すらない

  「守れそうにないから
   約束はしないでおこうよ」

君が言い残した言葉の意味を考えてみる
きっとそういうことなんだろうけど
いまの僕はそう思いたくなくて
ごめんね たぶん君のことが好きだったんだ
言えなかった言葉を飲み込んだ

気持ちを引きずったバスが発車する
これが最後なんだろうと言い聞かせる
本当はむりやりにでもさらってしまえば
いいのかも知れないけど

それもできそうにはないから
せめて僕は泣かないようにするよ

1996年7月23日

髪を切りに行こう

髪の毛を伸ばし始めたのは
なんてことはない、君がひとこと
「ロン毛にしたらどうなるかみてみたい」
そう、いったからで
このくそ暑いのに僕はしばらく
髪の毛を切らないでいることにした

耳の上辺りにかかる髪の毛がうっとうしくて
何度も切っていいか聞いたけど
君はいつも笑って
「だーめっ」といっては舌を出した

当然僕の伸びた髪の毛は周囲には不評で
上司からはうるさくいわれるし
同僚はバカにして笑うし
いいことなんかひとこともない

ただ君がひとこと「切っちゃえば?」と
いってくれるのをひたすら待っていた

先月床屋に行くときは君が後ろからついてきて
ばっさりやったりしないかずっとみてた
「ロン毛のオトコなんか、気持ち悪くないか?」
そう聞いてみたけれど
やっぱり君は笑うばかりだった

君がフラれたと電話をかけてきた
相手はどうやらロン毛だったらしい
うまく気持ちが伝えられないものだから
身近にいる僕にイメージを重ねたかったらしい

涙声で君は僕にいった
「明日、髪、切りに行こう」

君に引っ張られて入ったのは
君がいつもいく美容院
二人並んで髪の毛を切る
なんだかとても間抜けな光景で
僕たちは笑いをこらえるのに必死だった

じゃきじゃきというハサミの音を聞きながら
僕は フラれた時になぜ髪の毛を切るのか
なんて考えてみた

気持ちごと捨ててしまいたいからとか
新しい自分になるとか
きっと そんなんじゃないな

「ただうっとうしかったんだろ?」
「わかってるくせに」

やっぱりね
そんなことだと思ったよ

妙にすっきりとした僕たちは
人の多い商店街を歩く

「うっとうしかった?」
「わかってるくせに」

こんなことくらいで君の気持ちが晴れるなら
いっくらでもつきあってあげましょう?
僕のことなんかまるでお構いなしで
いつも僕を振り回してばかりだけど
それでも君が笑っていてくれるなら

1996年5月 7日

失恋は、つかれる。

とりあえず、部屋にある君のものは全部捨てよう
スーパーからもらってきた段ボール箱にぜんぶつめて
分別はきちんとして、燃えるものは半透明の袋に入れて
燃えないゴミと煮えきらない気持ちは
部屋のすみにしまっておこう

掃除機なんて自分でかけたのはずいぶんと久しぶり
こんなにきれいになるもんだと感心した
君にとられた白い綿シャツと
君が嫌いといったチェックのシャツを
まとめて洗濯機に放りこんだら
37分だけお茶にしよう

君のわがままにはずいぶんと振り回されたけれど
これからはもう悩まされることもない
泳げないくせにプールに行くこともなくなったし
興味がないくせにロックを聴くこともなくなった

こんなにひとりって気が楽だったっけ
ホントのことはよくわからないけど
洗濯と掃除の分だけ自分が元に戻っていく気がする
コーヒーカップ持って、ため息一つ
失恋はつかれる

この際だから、部屋のぞうきん掛けをしよう
君の手あかなんかぜんぶふき取ってしまおう
今ごろ君は海辺をドライブ?
そんなことをふっと思ったりして
これが終わったら、ゲームセンターへ行こう
有り金はたいて格闘ゲームをしよう
女の子キャラクターを全滅させたら
きっと僕は大丈夫でいられる

泣いたりしないかな
笑っていられるかな
僕はいつからか ひとりが嫌いになっていたのかも
なんでなんだろう どうしてなんだろう
「ひとりでも平気だよ」って最後の言葉が
嘘になってしまうようで

洗濯物を干し終わったら
いちばんだらしないカッコをして買い物に出よう
何カ月ぶりかでレトルト食品を買おう
自堕落な生活も たまにはいいかな

僕の横に誰もいないなんて、
想像したこともなかったけど
たった今からそういう生活
買い物カゴの重さに辟易しながら、ため息一つ
失恋はつかれる

電話線を外してしばらくおとなしくしていよう
みんな心配しているらしいけど
僕は僕なりにちゃんとやってる
君の作ったごはんがなつかしいけど
自分で何かするのもそれはそれでいいはず
やかんの湯気と、換気扇の音にため息一つ
ほんと、失恋はつかれるな