2002の最近の記事

2002年12月31日

会話

あなたがきゅうに
しにゆくろうじんのめをして
「ほんとうにずるいよなぁ」
などというので
わたしはなにもいうことができずに
わらうふりをして
ためいきをつくしかないのです

ほんとうにあなたがいなくなるまえに
わたしがじぶんのことをはなすひは
やってくるのだろうかと
そんなことをかんがえました

ほんとうにずるいのは
なにもいえないわたしのほうですか
はぐらかそうとするあなたのほうですか
「そうだね ずるいよね」
わたしもそうかえしておきました

発声練習

演劇部の発声練習から逃げるようにして給水塔の裏
街がいちばんよく見える場所に二人しゃがんだり黙ったり
良くない噂ばかり耳にする君の
助けてと叫ぶ声が聞こえてきそうで
今日も後を追いかけてきたのです

君はなにかあるとすぐに僕のいる教室の前を通りすぎる

何を話すでもなく何を聞くでもなく
僕たちは陰る日の消えてゆくさまをただただ焦点も合わさず
少しは気の利いたセリフなんかも出てくればいいのにと
他人事モードで自分を責めてみたり
君はといえばくちびるの裏側を強めに噛んで
涙のかわりに僕の右手をぎゅう、と握りしめるのです

(あ・え・い・う・え・お・あ・お・あ・え・い・う・え・お・あ・お)
(あ め ん ぼ あ か い な あ い う え お)

鼻をすすっては握りなおす手の力の加減が
僕に悲しみを半分だけ振り分けようとしているのでしょう
「僕たち、いつも一人でいるけど、一人ぼっちじゃないよねぇ」
なんとなくいってみたら君はうんとうなずくとそのまま泣き出してしまいました

(「水馬赤いなあいうえお」『あいうえおの歌/北原白秋』より引用)

2002年11月 1日

空も同じ

雨の音で目を覚まして早朝
すき間から風の漏れてくる窓に目をやり
雲に薄められた光の
それでも充分すぎる明るさに負けそうになる

古臭い装置を使った効果音
時折風に流れる銀の糸 淡く鈍く光る

毛布で顔を覆い
二三度身体を捩って纏わりつかせる
暑苦しくてもいいもう少し体温が欲しい

無意味な選択を繰り返して
辿り着いてみれば必ず同じ場所で
なにも変わらないのだと
なにも変われないのだと無表情に目を落とすばかり

冷蔵庫のモーター音がやけに気になり
外気に耳をさらせば着替えを済ませた空の色

泣いていたのは空も同じ
せめて日向に出ようとしなければ
泣いていたのは

2002年10月14日

訳も知らないで

すれ違うひとも少ないまま
いつの間にかできていた広い広い通りを
ひとり
夕方の熱が冷めかけた頃に
身体をあおる風
たぶん数年もしないうちに寂れてしまうであろう建物を
スクロール

自動ドアを抜けてエスカレーター
かけ上がるでもなく手すりにもたれ
摩擦の存在を感じ運ばれる
可視光線だけが切り取られた窓をナナメに

紙束の並ぶ空間を一往復 二往復
意味のない言葉ながめ がんじがらめの映像読み解き
他人との距離があいていく
天文学的加速度で むこう端にも姿が確認できません
天の声 有線放送 空耳 幻聴 電波
を受信

ああ、人を殺したいな

思いつくすべての方法についてその正当性を証明せよ
と問い掛ける
天に 有線放送の線の先に 空耳の声に 幻に 電波に乗せて
送信
完了

本棚にタオルを引っかけて座るようにして逝った少年と
親友に切ってもらったロープで逝った彼と
10カウントくりかえし空を飛んだ君と
何もできずにただ漫然と日常をやりすごし
昨日よりも少し痩せた僕を 比べるにはなんだか
僕になにか足りないような気がして

気がして

何年も来ただけじゃないか
そしてここにはもう誰もいなくなってしまったのです
もう誰も

(そう、僕の目の前を通りすぎるウサギも
無理やりな欲望を救ってくれるネコも)

ぐるり一周 二周
新たな人の気配を探し バターになる前にやめなくては
真後ろに立ったなにかに気づき その存在を確認する前に
鳴る指
くにゃり
身体が折れ曲がり立てなくなるのです もう二度と

助けてという言葉も思いだせないままに

2002年6月 1日

組立式愛玩用少年キット

「箱の中身を確認しましょう」
「道具ははじめにきちんとそろえましょう」
「手は洗いましたか?」
「説明書をよく読んでから作りましょう」

久しぶりに組み立てたモデル
でき上がるのに時間がかかった
途中
床に転がるパーツがなんだか
惨殺死体のようで少し気味が悪かった

ぼくはこのままなの?
ちゃんとそとであそべるようになる?
夢の中にまで出てくる始末で
時々は徹夜をして

うまく切り取れないのはあとで嫌だったので
余分を残しておいた(切りすぎを修正するほうが大変)
やすりで削り落とすときに少しおびえた顔をしたのが
とても愛らしくて 大丈夫 大丈夫と声をかける
すぐにきれいにしてあげるから

そとにはどんなものがあるの?
こわれたりしない?
ダメなことといいことをすこしずつおぼえていこう
そうすればきっと楽しいことが待ってる

組み上がった体を動かしてみる
いまはまだぎこちないのは慣れてないから
油を差す必要はまだ
声だって本当はもっとゆっくり出さないと

裸で動き回るのはよくないね
なにか着よう
好きなのを選ぶといい

上手に着ることが出来たら外に出よう
美しいものなどなにもない退屈なだけの街へ
君がいれば少しは変わるかもしれない
そんなむだな期待も一緒に持って