2015の最近の記事

2015年6月25日

ゲームセンターの占いの機械に
二人の誕生日を入れて質問に答える
「あなたたちの関係は?」
友達と恋人の選択肢で手が止まる僕
迷わず恋人のボタンを押す君
今だけね、の声は聞こえないふりをした

いつも良くない結果しか出なくて
しかたないよねと笑う
君も僕も こうすることが
いつか終わることも知っているから

人のいないときだけ
「恋人つなぎ」で歩いて
僕のこと そう思っていてくれるの?
って聞いても いつも笑ってごまかすんだ

帰るところを確保して
ダッシュで会いに来るのは
本当は もう やめにしてほしい
絡めた指を離す間際 泣きそうになる
その瞬間なんか君は知らないだろう
追いつかないってわかってて
追いかけるのは嫌なんだ

2015年6月17日

外だけがやたら明るくて、校舎の玄関は真っ暗に見える。それは決して気持ちだけの問題ではないと思った。
「キモ」
ひとことだった。本当にこれだけ。ずっと悩んで、ようやく決心がついて。最初で最後のチャンスだと思って言った「好き」という告白の返事が「キモ」。
聞こえた瞬間終わった、と思った。明日になれば学校中に広まるだろう。罵られるのは慣れてる。嫌われるのも。だけど、彼と話もできなくなるのだけは嫌だった。やっと普通に話ができるところまで来たのに。なんでこんなこと言おうと思ったんだろうか。してもしきれない後悔。
「帰るわ、じゃな」
彼は面倒くさそうな顔のままローファーに履き替え、玄関を出ていった。安っぽいドラマのようだと思った。持っていたかばんがやけに重い。
あれ以来、ただの一言も話すことなく別の道を進んだ。卒業式だって目も合わせなかったはずだ。

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2015年4月27日

帰郷(あるいは黒塗りにされたドローンのための)

首相官邸にドローンが落ちた日、繁華街では若者が騒ぎ、保育園にはお迎えの親が帰宅を急ぎ、僕は彼女を思って、永遠に未読のままのメッセージを送る。
ラジオからは大江千里が流れ、DJは似てると一言で済ませた。
10年どころでは済まされないくらいに時は過ぎ、僕は長い余生を彷徨い、彼女に打ち明けることもなく離れてしまった。
同窓会名簿は転居先不明の印がついているだろう。誰もどうなったか気にも留めないだろうことは離れる前からわかっていたことだ。
主義主張をしたところで、共感します、と言われてしまえば、それは何の意味も持たないことを意味する。いいねがいいのか悪いのかはっきりしないのと同じだ。聞きましたの保護者印ほどの効力しかないことを知っているのは受け手だけで、自らが発信側になった時に受ける同じことには理不尽だと憤るのだ。
トラックレースのように同じ場所を回るだけなのか、螺旋のように少しは先に進んでいるのか、誰もわからない。 振り返った時の景色の違いはおそらく変わらず、変わったのは自分の目線の位置と押し込められた立場のほうなのだ。
生きてゆく。生きてゆく、死にかたもわかっていて、後は実践するだけだが、生きてゆく。
彼の言葉は永遠に伝わることはなく、ドローンの形の奇妙さだけがクローズアップしてゆくだろう。
車で街中に突っ込むこと、人混みでナイフを振り回すこと、誰かを傷つけること、誰でもいいというのは自分のいる位置よりも相対的に下である可能性、無理解、気持ち悪いと一言で片づけること。
なにも変わらないまま誰もが思うあの頃から何年か経ち、僕たちはそれぞれの場所で淡々と生きていく。

2015年4月 5日

フリーワンライ企画「forgiveness」

ひとりだとは誰にも言えないので
頭のなかの友だちを何人も呼んで
公園で遊ぶ 図書館で過ごす
学校でお昼を食べる 誰かの家に行く
笑う けんかする 泣く なかなおり
矛盾しないように わすれないように
ノートに書きだす
頭のなかの友だちのこと
名前 性格 すきなもの きらいなもの
どこに住んでいるとか お父さんの仕事とか
いつしか自分が本当にいるのか どこにいるのか
わからなくなる
消しゴムで消してしまえばきっとなくなる
それくらいの危うい存在
きっとすぐに忘れるでしょう
もともといないことにされているのだから
物語よりも淡い自分のこと

  ひとりごとばかりで誰かといるような気配もなく
  教室の隅 黙々とノートになにか書いている
  小説家になりたいのか そうでもしないと気が狂いそうになるのか
  どちらにしても 誰も近寄ろうとはしない 得体の知れないなにか
  手を出せば 口を出せば 関わってしまえば
  痛い目にあうのは自分になることをみなが知っている
  だから
  距離は遠くなる 視線は避ける 視界から消す なかったことにする
  悪いことだとはわかっていても
  自分と自分のこの世界を守るために

ノートからあふれ出した彼らはいつしか自分の世界を覆って
ひとりでいることも平気になってしまう
(いいえ、彼らがいるからひとりではないのです
たとえ誰かの言葉で壊れてしまうほど もろい世界の話だとしても
どちらにいることが正しいことか 決めるのは自分だと思うから
存在しなくてもいいほうの世界からは消えることだってできる
今だってほら