投稿者: 添嶋 譲

ゲームセンターの占いの機械に
二人の誕生日を入れて質問に答える
「あなたたちの関係は?」
友達と恋人の選択肢で手が止まる僕
迷わず恋人のボタンを押す君
今だけね、の声は聞こえないふりをした
いつも良くない結果しか出なくて
しかたないよねと笑う
君も僕も こうすることが
いつか終わることも知っているから
人のいないときだけ
「恋人つなぎ」で歩いて
僕のこと そう思っていてくれるの?
って聞いても いつも笑ってごまかすんだ
帰るところを確保して
ダッシュで会いに来るのは
本当は もう やめにしてほしい
絡めた指を離す間際 泣きそうになる
その瞬間なんか君は知らないだろう
追いつかないってわかってて
追いかけるのは嫌なんだ

帰郷(あるいは黒塗りにされたドローンのための)

首相官邸にドローンが落ちた日、繁華街では若者が騒ぎ、保育園にはお迎えの親が帰宅を急ぎ、僕は彼女を思って、永遠に未読のままのメッセージを送る。
ラジオからは大江千里が流れ、DJは似てると一言で済ませた。
10年どころでは済まされないくらいに時は過ぎ、僕は長い余生を彷徨い、彼女に打ち明けることもなく離れてしまった。
同窓会名簿は転居先不明の印がついているだろう。誰もどうなったか気にも留めないだろうことは離れる前からわかっていたことだ。
主義主張をしたところで、共感します、と言われてしまえば、それは何の意味も持たないことを意味する。いいねがいいのか悪いのかはっきりしないのと同じだ。聞きましたの保護者印ほどの効力しかないことを知っているのは受け手だけで、自らが発信側になった時に受ける同じことには理不尽だと憤るのだ。
トラックレースのように同じ場所を回るだけなのか、螺旋のように少しは先に進んでいるのか、誰もわからない。 振り返った時の景色の違いはおそらく変わらず、変わったのは自分の目線の位置と押し込められた立場のほうなのだ。
生きてゆく。生きてゆく、死にかたもわかっていて、後は実践するだけだが、生きてゆく。
彼の言葉は永遠に伝わることはなく、ドローンの形の奇妙さだけがクローズアップしてゆくだろう。
車で街中に突っ込むこと、人混みでナイフを振り回すこと、誰かを傷つけること、誰でもいいというのは自分のいる位置よりも相対的に下である可能性、無理解、気持ち悪いと一言で片づけること。
なにも変わらないまま誰もが思うあの頃から何年か経ち、僕たちはそれぞれの場所で淡々と生きていく。

フリーワンライ企画「forgiveness」

ひとりだとは誰にも言えないので
頭のなかの友だちを何人も呼んで
公園で遊ぶ 図書館で過ごす
学校でお昼を食べる 誰かの家に行く
笑う けんかする 泣く なかなおり
矛盾しないように わすれないように
ノートに書きだす
頭のなかの友だちのこと
名前 性格 すきなもの きらいなもの
どこに住んでいるとか お父さんの仕事とか
いつしか自分が本当にいるのか どこにいるのか
わからなくなる
消しゴムで消してしまえばきっとなくなる
それくらいの危うい存在
きっとすぐに忘れるでしょう
もともといないことにされているのだから
物語よりも淡い自分のこと
  ひとりごとばかりで誰かといるような気配もなく
  教室の隅 黙々とノートになにか書いている
  小説家になりたいのか そうでもしないと気が狂いそうになるのか
  どちらにしても 誰も近寄ろうとはしない 得体の知れないなにか
  手を出せば 口を出せば 関わってしまえば
  痛い目にあうのは自分になることをみなが知っている
  だから
  距離は遠くなる 視線は避ける 視界から消す なかったことにする
  悪いことだとはわかっていても
  自分と自分のこの世界を守るために
ノートからあふれ出した彼らはいつしか自分の世界を覆って
ひとりでいることも平気になってしまう
(いいえ、彼らがいるからひとりではないのです
たとえ誰かの言葉で壊れてしまうほど もろい世界の話だとしても
どちらにいることが正しいことか 決めるのは自分だと思うから
存在しなくてもいいほうの世界からは消えることだってできる
今だってほら

リピート

広がらない世界
澱む空気
言葉のない日常
希望とか
夢は
卒業するときに捨てた
起きて
働いて
食べて
働いて
眠る
なにも考えずに
くりかえす
くりかえす

一人になった時に一人でいる意味を考えた

誰のことも好きにならなくていいんだなあ
って気がついたらなんだか急に楽になって
おもいついたように部屋の掃除はじめたり
読みかけの本をまとめて読んでみたりして
できなかったことを全部やろうとしている
きっとすぐに飽きるのはわかっているから
それまでは好きにしててもいいことにする
したかったことってなんだったんだろうか
丸めたチラシマイクがわりに歌ったりとか
ビデオ見ながら一緒におどってみたりとか
ご飯作って一人で食べて裸のままねむって
長い時間かけて風呂に入ってそんなことを
そんなことをしたかったのだろうか自分は
電話とかメールはまだしばらくしたくない
外に出るのも当分いい誰にも会いたくない
いつかそんなことをしたくなったときまで
くりかえす自問自答とつきあうことにする

ノスタルジー

放課後 誰もいない教室の開け放した窓から風が
味気ないベージュのカーテンを揺らして
僕はここにいるよ と 言っているようで
帰ろうと思うんだけど まだここにいてほしいような
そんな素振りを見せている
 
整理しきれていない机とか
あれだけ先生に言われているのに棚に乱暴につっこまれた教科書とか
いつまで僕はこの光景を見ていることができるのか
このまま大人にならずにいられたら
もしかしたら そんなことができればいいのだけれど
 
花壇の水やり当番とか
科学部のメダカの水槽とか
誰も知らない 僕が大切にしているもの
一つずつ集めてとっておけたらいいな
いつか歳をとって 制服の似合わない身体になっても
僕だけの教室 僕だけの世界があれば
いつまででも一人ででも生きていけるのに
 
遠くから聞こえる 金管楽器の音
ぐるぐると回る視界 許されはしないだろう
僕がここにい続けること 僕が子どものままでいること
僕の好きなものをすべて捨てて
嘘でも笑って話して汗かいて叱られて
なにかの一部になって 誰かのかわりになって
生きていく 年老いて いらなくなって いつか
すべてのものから捨てられる日まで
 
風にあおられたカーテンが顔に当たる
僕を覆い隠す
陸上部の掛け声 サッカー部のシュート
野球部のノック 軽音部のドラム
僕の耳に入るすべての音
僕の視界に入るすべての
 
すべての 僕がいなくても なりたつ この世界に
 
(泣いたりはできないよ
(許されたわけではないから
(必要とされてはいない
(むしろこのまま
 
カーテンの影 消えてなくなる僕の
誰も知らない形跡 最初からいなかったのか
本当はいたことに気づかないだけなのか
窓を閉めて おとなしくなる頃には
誰もいなくなって 姿もなくなって
おしまい さようなら またいつか
 
またあした 僕がいなくても なりたつ この世界に
さようなら いらないものを