投稿者: 添嶋 譲

カワイソウ

あんた、嫌われてるって自覚あるなら
もう少し空気読めよ
誰もあんたの顔なんか見たくないんだよ
って言われて
聞いてた場所外してここに来たのに
なにそっちが変更してんだよ
って思って
でも そんなこと言えるわけもないから
下向いて我慢してた ずっと
えらそうにしてるけど
一人じゃなんにもできないのに
人がいる時だけはりきって
バカみたい だ
バリゾーゴンはまだ続く
この人かわいそうだって思って そしたら
なんかストレス発散に僕を使ってんのかな
って
突然すべてのことが許せるみたいに
許してるわけじゃないけど
あきらめがついたみたいに
いま聞こえている言葉が
どこか遠い星の言葉のようになって
意味もわからないくらいになにも感じなくなる
別に生きてる必要もないけど
目の前で死ぬほどバカでもない
本当にいやになったらその時はその時で
止めもしないことくらいわかるから
きっとラクショーでジ・エンド

写メ

ガチのカメラだと警戒されるけど
写メくらいならわりとあっさり
音がしてから「なんだよ」って顔で
だけどアルバムには君の姿
誰にも見せない あたしだけが知ってる
目を伏せたときのまつ毛のカーブが好きで
あんまりいじるのが好きじゃない眉とか
見てるだけで泣きそうになったことがある
なんてこと絶対に言えないし話せない
本当は彼女のことが好きなんでしょ
聞いてもきっと同じことしか言わないよね
何度もくりかえしたらいつかもしかしたら
なんて あたしもバカだなあ
何枚も写メしてたらこっち向いてくれた
唇とがらせて
歯を見せて
大きく口をひらいて
三枚撮ったら「暗号解読」
肩を叩くとそのまま走っていった
もう
消せなくなっちゃったじゃん

ひとりあそび

おおぜいであそんでいるのを見ているのがすきだった
ときどき中に入りたいとおもった
できなかった
たまにうまくいったときにぼくをきらいな人たちが
さっといなくなることがあってそれにきづくと
ぼくが中に入ってからだれかがいなくなるまでの
きかんをよそうしてあそんだ
それが楽しくなるころ
べつにむりして中にはいらなくてもいいことに気がついて、いま

howdy

おはよう
こんにちは
僕の声は聞こえますか
ぬいぐるみ相手にしていた練習も
そろそろ終わりにしたいのです
外は晴れ
帽子をかぶって出れば
なんの問題もありません
誰とも目が合わせられなくても
哀しむことはしたくないのです
外は雨
傘をさして出れば
なんの問題もありません
おはよう
こんにちは
僕の声は聞こえますか
こんばんは
さようなら
僕の声はとどきますか

通勤電車

僕の身体に割りこむようにして君の身体が侵入してくる。
厄介さと充実感。
熱さと苛立ち。
ぴったりとはりついた僕たちは少しずつ体温を上げ、
知らず、前歯に力を入れる。
我慢とか。やり過ごす力とか。
隙間があいて、ずらす眼前に
君の、顔。
視線が合う前にもう一度ずらす。
曇るガラス。
呼吸とともに大きく、小さく。
すべての動きが止まり
僕たちを覆うものが吐き出されようやく離れる。
もうやだ、
と、
また会えるかな、
の、
中間。
態勢を直したら汗ばむ空気をまとったまま、もう少し。

あかり

思い出に灯をともして
一列に並べる
一つ置いては一歩下がり
一つ置いては一歩下がる
光の列が長くなって大きく蛇行した川になる頃
君との思い出はすべて光になり
僕の来た道を照らすのです
君との思い出を燃料にして
灯はゆらりと空を照らす
一際大きく燃えるのは二人笑った日のこと
小さく小さく揺れるのは人知れず泣いた日のこと
たぶん誰もなんのことかはわからないでしょう
光の列が波となり大きく小さく寄せて返す頃には
僕の心は空になり
いつか新しい記憶を重ねる場所を作るのです

病院

同じクラスの友だちが虫垂炎で入院したと先生が話していたのを
母親と夕飯の買い物にいった帰りに思い出して
一人彼を見舞うことにした
週末の薄暗い病院の廊下は子どもが一人で来るようなところではない
エレベーターに閉じこめられたらどうしよう
こんなところ来るんじゃなかったかな
不安が最高潮になるころ病室につく
思いつきで来たのだから見舞いの品もなにも持っていない
せめてジャンプでも買ってくるんだったと思ったが
パイプ椅子の横の台にはもうじき最新号が出るはずのジャンプが置かれていた
ぎこちなく会話をし 滅多に見ることのない手術の跡を見せてもらい
「なにしに来たの」と言われる前に帰ることにした
 
二週間後
ふたたび学校に来ることとなった彼から
見舞いに来た友達へ渡すものがあるからと
並ばされる
僕は一瞬考えたが並ぶのはやめた
待っているクラスメイトの数が減り
小さな紙袋がなくなろうとしているとき
「俺のぶんは?」
どっとわく教室
「えーなんだよー。ジャンプとかマンガとかいっぱい持ってったじゃんよー」
彼のぶんだけなかったらしい
数を数え間違えたという彼 申し訳なさそうにしていた
それを見て並ぶのをやめてよかったと思った
不用意に動いて失敗してばかりの自分が
初めて空気を読んだ瞬間だった
(そして僕が顔を見にいったことなど彼はすっかり忘れていた)

「布団とレンズ」

冬の縁側に日があたって
広げた布団がふくらんで
ふわり
ネコが心地よさそうにまるまって
私も少し場所をかりて
ふわり
横になって 体に日をうける
空の色をたしかめるように
ぐるり
遠くに見えるのはレンズ雲
山もないのに不思議
目をほそめ 凝視しながら
地学のすきだったあなたのこと
すこしだけ考えてみる

大きな木の下のふたり

君が 会いに来た   僕に
連絡もなしに   突然
駅で待ちあわせて、 大きな木の下
光 漏れる  ベンチで
なに話すわけでもなく
黙ったり   ふふ、と笑ってみたり
思い出したように   昔の話とか
   あの絵、全部売れたんだっけか
   風邪ひかなかった?
   ふたりして ひどい風邪ひいたじゃん
   忘れたよ そんなの
訪れた 静けさ 風の音   さわさわと枝のゆれる
見上げると 細かい光    まぶしくは、ないけど
目は開けられない
だめかも
君は 言うと うつむいて、  そのまま
泣いてる?  聞いても  返事はなく、
風の音に まぎれて
君の 嗚咽が きこえるだけ

脱皮

死んでしまったぼくから脱皮したぼくはまるで出来の悪いホラー映画のような歩きかたで外に出る。誰も気づかない。死んでしまったからだ。嘘だ。はじめから誰にもこの存在は知られていない。必要のない人間。だから死んだのだ。ゆらゆらと歩く真っ暗だったはずの街にはイルミネイション。いつか見た写真のように、フィルターをかけた光がぼくの目に入ってくる。キラキラするものは僕だって好きだった。一人でいたって。誰といなくても。今年も本当はこうやって見に来るはずだった。一人で。一人で。もう、そんな季節になったのか。嗚呼。
ぼくが脱皮した死んでしまったのぼくの身体は今ごろベッドの上にだらりと垂れているだろう。生気を失った形で。しまっちゃうおじさんが回収に来るまで。嘘だ。はじめから生気などなかったし、この世にはそんな人はいない。何故ならぼくは必要のない。だから死んだのではないのか。いつか君に会いたい。あって好きだといいたい。違う。ごめんねといわなくてはならない。つきまとうようにして。うしろから見つめていて。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。何度いえば許してもらえるだろう。
そして僕は今こうして光があふれる夜の街をさまよう。誰も気づかない。気づかないフリをするのは厄介事にかかわり合いになりたくないからだ。正しいと思う。僕は誰にも気づかれたくない。君にも。あいつにも。嘘。嘘だ。全部。全部嘘だ。ショウウインドウに飾られたマネキンに恋をしようか。君ではないからそれは出来ない。レコード屋の店員も、ファストフードの店の人も、掃除の人も、ほらそこにいるぼくの知らない誰かと歩く君も。
君も。
ぼくの知らない誰かと。
歩く。
……歩く?
ぼくの知らない誰かと?
君が?
嘘だ。嘘だ。
君が笑っている。ぼくの知らない誰かを見つめて笑っている。僕を見て笑うのとは違う笑い方で君が笑う。
(せけんではこれをしつれんとよぶのだそうです。まだはじまってもいないのにぼくはもうしつれんしたというのですか)
ずるりと垂れた手の先から滴り落ちるのは雨。赤い雨。手首から。ひじから。意外と痛いのです。だいぶ我慢しているのです。死んでしまったぼくから脱皮したはずのぼくは生まれ変わることなくさっきまでの痛みをしつれんのいたみとかんちがいしたままこのまちをさまよっていつかちからつきてたおれてしまうのでしょうかそしてこれはこいなのでしょうかちがうのでしょうか。
とっぷうにのってぼくのだらりと垂れていたそとがわが飛んできました。ぼくにいったいどうしろというのでしょうか。ふらりとめまいがして気がつくと泥だらけの状態で道に倒れていました。またもとどおり。これでまた一からやり直し。やっと死んだのに。死ぬことが出来るのはリア充だけと誰かはいいました。ぼくは死ぬことすらできない。
そんなぼくを君は見つけて
ちかよってきて ぼくの知らない誰かと
笑顔で手をさしのべてくるのです。
大丈夫ですか? と
だいじょうぶです(痛いけど)
だいじょうぶです(一人だけど)
だいじょうぶです(死に損なったけど)
君のその姿があればまた一日生きていくことができるでしょう。
もうどうにもならないのだけれど

りごうしゅうさん

うん じゃあ まぁ ここにいるね って
別になにするでもなく
声だけかけて たぶんあとはそのまま ほったらかしで
すみっこに座って
誰かが集まって 騒いではしゃいで
また帰って行って 誰もいなくなるその様を
ひとり
ぼんやりと見ているだけ
なんだと思う
深く関わったって ろくなことなんかなかったでしょ
追いかけられて 逃げるのが楽しかったでしょ
そんなの 誰とだってよかったんでしょ
あからさまに眉ひそめて 嫌悪感あらわにして
自分のことなにかすごい人みたいに見せなくたって
君はえらいひと 君は頭のいい なにかすごいひと
比較対象そばにおいて 底上げしなくたって
君は正しいなにか たぶん信頼されてるとかそんな感じの
なにしてんの そんなところで つまんなくないのって
別になにするでもなく
声だけかけて あとはそのまま ほったらかしで
なかったことにして
誰かが誰かを呼んできて 集まって離れて
なくしたなにかを 取り戻そうとするその様を
ずっと
最後まで見ているだけ
なんだと思う