投稿者: 添嶋 譲

(無題)

気がつくといつも僕は十代の頃に戻っていて
弾けないギターを担いで河原までダッシュして
風に負けそうになって
それでも抵抗をやめない草っ原の上で
弦を引っかいて大声で歌っていた
 
リライトする僕の青春
なにかをかき集めるように
二度とやり直しのきかないあの頃を取り返すため
 
歌っているうちに自分がしていることが
意味のない行為であると気がついて
上書きできない過去にやられそうになる頃 目が覚める
 
まただよ。また
 
僕がしたかったこと全部
やっていたらたぶん
きっと
ダメになってた
なにが? 誰が?
聞き分けのいい自分が?
すべて否定してきたあの頃が?
だったらいまこうしてくすぶっている自分ならいい?
いまのままでいい?
本当に? 本当に? 本当にそうなの?
 
現実だけ見て生きてきて後悔ばかりして
夢の中でだけ自分のなりたかった自分でいて
本当にそれでよかったんだろうか?
 
続く自問自答
出るわけのない答え
待ってろ
今日 会議が終わったら
決着つけてやる


初出 はてなハイク 2009-03-21 19:17:56/改稿 2009-04-15 0:35:00

(無題)

変化についていけないのは昔からのことで
自覚するようになってから
嫌いだった自分がもっと嫌いになった
  
君が僕の知らない間に違う人のようになっていて
僕はそれは嫌で仕方がなくて
でもそれを受け入れなければこの先が無いことも
わかっている
 
わかっているんだけど
 
頭で理解したことを身体に浸透させようとすると
拒絶反応を起こす
胸とか 胃の辺りとか
 
そのくせ「いつまでも変わらないね」といわれると
無性に腹が立つのだ
なんて自分勝手な


初出 はてなハイク 2009-02-25 00:02:4/改稿 2009/03/04 00:20

(無題)

じゃぁ、またねって 
何度もくりかえして
いつか その「またね」が
嘘になる日が来るのだろうと思っていた
(わりと日常的に)

そして当然のようにそのときが来て
そのたびに ああ、まただ って思って
いつまでたっても慣れないなぁと
自嘲う(わらう)しかなくて

誰かを悪者にしないように
自分の悪いところを数えなおす
そんなことの繰り返しばかり

初出 はてなハイク  2009-02-22 19:16:50/改 2009-03-03 00:30

会話

あなたがきゅうに
しにゆくろうじんのめをして
「ほんとうにずるいよなぁ」
などというので
わたしはなにもいうことができずに
わらうふりをして
ためいきをつくしかないのです
ほんとうにあなたがいなくなるまえに
わたしがじぶんのことをはなすひは
やってくるのだろうかと
そんなことをかんがえました
ほんとうにずるいのは
なにもいえないわたしのほうですか
はぐらかそうとするあなたのほうですか
「そうだね ずるいよね」
わたしもそうかえしておきました

発声練習

演劇部の発声練習から逃げるようにして給水塔の裏
街がいちばんよく見える場所に二人しゃがんだり黙ったり
良くない噂ばかり耳にする君の
助けてと叫ぶ声が聞こえてきそうで
今日も後を追いかけてきたのです
君はなにかあるとすぐに僕のいる教室の前を通りすぎる
何を話すでもなく何を聞くでもなく
僕たちは陰る日の消えてゆくさまをただただ焦点も合わさず
少しは気の利いたセリフなんかも出てくればいいのにと
他人事モードで自分を責めてみたり
君はといえばくちびるの裏側を強めに噛んで
涙のかわりに僕の右手をぎゅう、と握りしめるのです
(あ・え・い・う・え・お・あ・お・あ・え・い・う・え・お・あ・お)
(あ め ん ぼ あ か い な あ い う え お)
鼻をすすっては握りなおす手の力の加減が
僕に悲しみを半分だけ振り分けようとしているのでしょう
「僕たち、いつも一人でいるけど、一人ぼっちじゃないよねぇ」
なんとなくいってみたら君はうんとうなずくとそのまま泣き出してしまいました
(「水馬赤いなあいうえお」『あいうえおの歌/北原白秋』より引用)

空も同じ

雨の音で目を覚まして早朝
すき間から風の漏れてくる窓に目をやり
雲に薄められた光の
それでも充分すぎる明るさに負けそうになる
古臭い装置を使った効果音
時折風に流れる銀の糸 淡く鈍く光る
毛布で顔を覆い
二三度身体を捩って纏わりつかせる
暑苦しくてもいいもう少し体温が欲しい
無意味な選択を繰り返して
辿り着いてみれば必ず同じ場所で
なにも変わらないのだと
なにも変われないのだと無表情に目を落とすばかり
冷蔵庫のモーター音がやけに気になり
外気に耳をさらせば着替えを済ませた空の色
泣いていたのは空も同じ
せめて日向に出ようとしなければ
泣いていたのは

訳も知らないで

すれ違うひとも少ないまま
いつの間にかできていた広い広い通りを
ひとり
夕方の熱が冷めかけた頃に
身体をあおる風
たぶん数年もしないうちに寂れてしまうであろう建物を
スクロール
自動ドアを抜けてエスカレーター
かけ上がるでもなく手すりにもたれ
摩擦の存在を感じ運ばれる
可視光線だけが切り取られた窓をナナメに
紙束の並ぶ空間を一往復 二往復
意味のない言葉ながめ がんじがらめの映像読み解き
他人との距離があいていく
天文学的加速度で むこう端にも姿が確認できません
天の声 有線放送 空耳 幻聴 電波
を受信

ああ、人を殺したいな
思いつくすべての方法についてその正当性を証明せよ
と問い掛ける
天に 有線放送の線の先に 空耳の声に 幻に 電波に乗せて
送信
完了
本棚にタオルを引っかけて座るようにして逝った少年と
親友に切ってもらったロープで逝った彼と
10カウントくりかえし空を飛んだ君と
何もできずにただ漫然と日常をやりすごし
昨日よりも少し痩せた僕を 比べるにはなんだか
僕になにか足りないような気がして
気がして

何年も来ただけじゃないか
そしてここにはもう誰もいなくなってしまったのです
もう誰も
(そう、僕の目の前を通りすぎるウサギも
無理やりな欲望を救ってくれるネコも)
ぐるり一周 二周
新たな人の気配を探し バターになる前にやめなくては
真後ろに立ったなにかに気づき その存在を確認する前に
鳴る指
くにゃり
身体が折れ曲がり立てなくなるのです もう二度と
助けてという言葉も思いだせないままに

組立式愛玩用少年キット

「箱の中身を確認しましょう」
「道具ははじめにきちんとそろえましょう」
「手は洗いましたか?」
「説明書をよく読んでから作りましょう」
久しぶりに組み立てたモデル
でき上がるのに時間がかかった
途中
床に転がるパーツがなんだか
惨殺死体のようで少し気味が悪かった
ぼくはこのままなの?
ちゃんとそとであそべるようになる?
夢の中にまで出てくる始末で
時々は徹夜をして
うまく切り取れないのはあとで嫌だったので
余分を残しておいた(切りすぎを修正するほうが大変)
やすりで削り落とすときに少しおびえた顔をしたのが
とても愛らしくて 大丈夫 大丈夫と声をかける
すぐにきれいにしてあげるから
そとにはどんなものがあるの?
こわれたりしない?
ダメなことといいことをすこしずつおぼえていこう
そうすればきっと楽しいことが待ってる
組み上がった体を動かしてみる
いまはまだぎこちないのは慣れてないから
油を差す必要はまだ
声だって本当はもっとゆっくり出さないと
裸で動き回るのはよくないね
なにか着よう
好きなのを選ぶといい
上手に着ることが出来たら外に出よう
美しいものなどなにもない退屈なだけの街へ
君がいれば少しは変わるかもしれない
そんなむだな期待も一緒に持って

君の手のひらから

いつも冷たい君の手が
今日はやけに熱いのは
ほかの誰かのそばにいたから?
「今日は冷たい手をしてるのね」って
つつみこんで 自分の方にひきよせた
君の顔がやけに 大人びてみえる
君の手のひらから 気持ち冷めてゆく
僕の手のひらから 心 離れてゆく

ある日、突然

神様が、僕の目の前に来て、
こう 言ったんだ。
「あ、君ね。
 失敗作だったから
 回収されることになったから」
さて、僕はなんて言えばいいんだろう?

決して彼らのようではなく

ひとの話なんか誰も聞いてはいない
ということに気がついてから
僕は自分から話しかけることはやめようと決心した
「口から産まれてきたような子」と
親にまで揶揄されるような僕にとって
日長一日黙っているのはかなり困難なことのように思えたが
「嫌われ者は黙ってろ」
「おまえの話なんか面白いわけないんだから」
「これ以上誰かに迷惑かけてどうする」
ということを心の中で繰り返しては飲み込んで
あとは本でも読んでいれば
自然と時間が経っていくことがわかってきた
「先生、あのね」とノートにでも書けば
許されるような年齢はとっくに過ぎたし
だんだんと臆病になってくる自分には
人の輪の中に無理やり割って入ることも
なにがしかの罪悪感を伴うようになってきた
     君の方を見ると
     君はすぐにいやな顔
     そんなつもりはないのに
     ただ 君のことを
仕方ないよねと嘲笑(わら)う
人前では泣かないと決めている
これ以上誰かに何かを言われたら
僕ができることは一つだけだということも
わかっているのだ
ただそれだけのことなのに
     せめて君が引導を渡してくれたら
     たぶん僕はすぐにでも
     君にいやな顔をされるよりかは
     どれだけか
授業が始まればまた教師たちは
僕をネタにあの話を始めるのだろう
ほんの少しだけ我慢していれば
ひととおり嘲笑(わら)われて
いやらしい目つきで見られて
たぶんそのくらいで終わるはずだ
そうしてそれだけのために僕はここにいる
感情も口も閉じたまま
ひどく痛む胸を気にしながら

コインランドリー

真夜中のコインランドリー
                     は
で                             ひ
ちょうど                          と
金魚                            が
 鉢                            い
 の                            な
  ように                         く
                              て
僕は                            好
 世間から隔離されて                    き
         い
         ます。
乾燥器 5kgまで
ぐるぐる ぐるぐるぐるぐる ぐるぐる ぐるぐるぐるぐる ぐるぐる ぐる
くたびれたTシャツと
   ゴムの伸びきったパンツ
     襟が真っ黒のワイシャツ
 ぐるぐる ぐるぐる ぐぐる ぐるぐる ぐるる ぐるぐるぐる ぐるぐる
 君にもらったネルシャツ
ワークブーツに似合うごっつい靴下
            コーネリアスのTシャツ
       デニムのパンツ
 るぐる ぐ  ぐる ぐるる ぐるぐ ぐぐる ぐるぐる ぐるぐるぐる ぐる
               100円で10分運転します
たとえば
   たとえば
    た とえば。
 ここで今 本当にひとりきりになっても、2~3日は持つ、
 だ
  ろう。
 伊藤園 ダイドードリンコ(ねえ、なんで「ドリン『コ』」なの?)
 コカコーラボトラーズ(なぜか鈴木京香のポスター付き)ときて
 明治乳業、グリコ
     と
     まあ、これだけの自動販売機があるからだ。
  おもわず「♪グリコ」とか口ずさんじゃうのが寂しいけど
 これをぶっ壊していけば大丈夫。
 硬貨だって手に入るしって、ひとりしかいないんだったら
 お金なんか意味ないじゃん
 あれってただの金属の固まりじゃんって
         僕、誰にむかっていってるんだろう?
古ぼけたカラーボックス(980円、かな)には
なぜか「バディ」。
    そういや、この前きたときは
    おとなしそうな見た目の男の子が
    ずーっとこっちを見てたなぁ。
           うん、たしかに。
    で、彼の手には「バディ」。
    そのときは僕、カジくんみたいに半ズボンはいてたから
    もしかして、彼は、ショタコン?
んなわけないか。
でも、ちょっとドキドキした(ウソ)
とまった...と思ったら、
となりの乾燥器(大)だった。
ずいぶんためこんだなぁ、と ひとごとなのに
感心したりして。
なかの物から察するに、きっと学生さん。
      「あ、
          あの。」
            後ろから、声。
            ふり、むく。
            と。
   「そこ、ボクの洗濯物……」
        こりゃまたずいぶんと気弱そうな男の子。
        って、この前の彼じゃん。
   「この前もいましたね。この近くなんですか?」
               「それは秘密です」
   スナドリネコさんよろしく一言だけ。
   そのまま深夜の観察会に突入する。
   彼は頼みもしないのに自分の身の上を話し始めた要約すると高校のと
   きに先輩に襲われてから男にしか興味がわかなくなってでそのときの
   先輩に僕が似ていたらしく一目あったその日から恋の花咲くこともあ
   る見知らぬあなたと見知らぬあなたがパンチでデート(いらっしゃ~
   い←それは違う番組だろ)てなことらしいなにを考えているのだ君は
        「あんた、バカぁ?」
  そうこうしているうちに乾燥器が止まったので、
  洗濯物をとりだしながら
  僕は無理難題をふっかけた
  「ここで裸になってオナニーしたら、そしたらつきあってあげてもいいよ」
  その男の子は見るからに悲しそうな顔をして、洗濯物を抱えて
  ここを出ていった。
  なにか落とし物をして。
  つまみ上げると、パンツ。てぃーばっくってやつですか。
  恥かかされて、パンツまでおとして、可哀相なヤツ。
  でももしこれを持って、探しにいったら、
  非常に間抜けなシンデレラだなぁ、と、世間の夢など
  すっとばかすようなことを思っては
     笑った。
  笑った。
          笑った。
            笑った。
      咳が出た。
        苦しい。
          でもまだ
       笑っているんです僕はこの馬鹿馬鹿しさに呆れるほど!
だからっつって 人の洗濯物持って帰るほど
着るものには困っちゃいないし(←そういうことじゃないだろ)
まして変態でもないので
      「わすれもの」と紙がはってあるカゴに
    ほうりこみ
      丸椅子に腰掛け
          しばし一服。
       (お気に入りはケントマイルドボックス入り)
あ、雪だ。
    こんな隔離された場所にも雪は惜しみなく降るんだなぁ
    なに勝手に隔離されたなんて思ってんだろ
    早くしないと 道 凍るぞ
      と わざと声にだしながら
         僕の唯一の居場所である
           コインランドリーをあとにした。
                 また、今度。