投稿者: 添嶋 譲

はれたから

朝のラッシュがキライで
渋滞の道をくぐり抜ける
ようにして会社にかよう
毎日毎日おなじこと
くりかえすようにして
なにも考えないように
失敗だけしないように
重くしめった空気
地下道をかけぬける
学生時代とかわらない道のり
僕がいない中央線
ぎゅうぎゅうづめのひとりぼっち
ひたいをつけた手あかだらけのてすり
僕のからだをすこしだけ
冷たくしてくれる
「きみはひとりでも
 いきてゆけるから」
なんてありきたりな言葉
何度も何度もかみしめては
煮詰まったコーヒーに
ミルク落としてすする
そっと




いようなしあわせ
いまさらかき集めて
ジグソーパズル編むように
もうなにもなくていい
だれもいなくてもいいと
書類でうもれながら願う
音のない箱のなかで
キーボードの音だけたたきつけて
はれたからきょうは家まであるいてかえろう
きみのいない家まで

咳が、でた。

咳が、でた。
ゆうがた近く
あかりひとつで
咳が、でた。
どのみち心配
などする人もおらず
あまりのはげしさに
いたむ胸と
しぼりだすような涙
熱をだしてしまえば
楽になるのに
そんなことさえままならず
おちそうなタバコを
あわてて消す、住人ひとり
この世の中に

days(非可逆連続体。)

永遠に変化し続ける今日。
なにひとつ変わらない自分。
「中学ん時から全然変わんないね」
とは そのむかし
一緒に手をつないで帰ったことのあるもと友人の弁。
部屋を大掃除してて出てきた証明用の写真
いつとったものだかは憶えてないけど
いまも使えそうでなんとなく怖くなる
変わっていくことに憧れて
変わり続ける自分を見ていたくて
大学まで行ったのに
いまじゃこんなていたらく。
早番も遅番も残業しちゃったら帰る時間はみんなおんなじでやんの
「あれえ? まだ残ってらしたんですか?」
とは 入社2年目の女子社員の弁。
「日付が変わって22日、今日の空模様です」
テレビでいってるのに僕たちの会話はいつだってそう
「明日、あいてる?」
深夜12時からつぎの日が始まるっていうのを
意識するのは大みそかの夜たった一晩だけ
明けましたっておめでたくない
いつぞやの偉い人が死んだ日
僕は大失恋をした
ありがたいコトに(ちっともうれしくないコトに)
僕は失恋して何年目というのを年号とともに数えることができる
今年で9年目あの人はもう忘れてしまったかしら
などと感慨にふけることはまずなくて
今日も君からの携帯電話が鳴ることを待ってる
「電車でGO!、二面クリア〜!!」
とは ほんの12時間ほど前の話。君の弁。
永遠に変化し続ける今日。
なにひとつ変わらない自分。
そればかりを気にしてる自分がココにいて
今日も今日とて仕事がたまる。
荷物がどっさり。気分はぐったり。
「そういやぁ、小学生の時もこんなこと考えてたなぁ」
とぼんやり。まだらボケのように仕事場を徘徊。
空中浮遊はできないけど
空間浮遊人間関係浮きまくりは僕の得意技
いつだってそう。いまだってそう。
進歩しない自分が悪いのか、それをよしとする自分が悪いのか。
僕Aというのと僕Bというのが存在して
いつも何かをせめぎ合ってるといえば聞こえがいいのかも知れないが
なんてことはない二律背反アンビバレンス
自己矛盾の葛藤の中で日々をのんべんだらりと過ごしています
いっそみんな死んでしまえばいいのに
と口の中で繰り返すアニメの主人公のように
なんのために生きているんだろうと
自問自答してこの文章を終わりにしようかと決心する
「うまくすれはこれが詩のネタになると思ってやってるんだろ?」
とは僕Cのいけん。降参。

伝わらなかった、言葉、は

書 い 君
い て が
て く こ              僕はもう何もかくことができなくなりました
い れ の
ま る 手              気の利いた言葉も
す こ 紙
  と を              歯の浮くような台詞も
  を 読
  期 ん              ただの一言だって浮かんでこなくなりました
  待 で
  し
  て
           なんてね
      いつかこんな日が来ると思ってた。
      そう 遠くない将来に。
                               き ぼ  き ぼ
                               み く  み く
                               が が  は は
さっきした約束は打ち切られた                 ぼ き  ぼ き
TVドラマの予告のようなもので                く み  く み
最後の言葉が                         を を  で を
さわやかであるならあるほど                  き き  し し
後に残る感情は                        ら ら  あ あ
                               い い  わ わ
                               に に  せ せ
                               な な  に に
                               れ れ  は は
                               れ れ  な で
感情は 尾を 引く モノですか                ば ば  れ き
                               よ よ  な な
                               か か  か か
                               っ っ  っ っ
                       ?       た た  た た
            のに
            そう
            思うだけで
                     「そんなこと、あたしに聞かないで」
                     「だって、誰が答えてくれるんだい?」
    あ な い や 哀 そ
    ふ か ま り し う
    れ っ ま き く 思
    て た で れ な う
    き ほ 流 な っ だ
    ま ど し く て け
    す の た な   で
      涙 こ っ
      が と て
        も
                      「どうかしたの?
                              なに 笑ってるの?
                         どうして 泣いてるの?」
「ヒトのからだの大部分って
 水分だったんだなぁ
                               .........って、さ」
                    遊
                    園
                    地
                    に
                    い
                    け
                    な
                    く
                    て
                    ゴ
                    メ
                    ン
                    ね
                     。
とにかく君をここから離したかった
とりあえず僕を恨んでほしかった
できることなら僕を嫌いになってくれればよかった
かなうことならば
     このふぁいるは
          よんでほしくなんか
                 なかったのです
      ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
      ┃●〜*   システムエラーが起きました。      ┃
      ┃     不当な命令です。            ┃
      ┃                         ┃
      ┃                    ┏━━━┓┃
      ┃                    ┃再起動┃┃
      ┃                    ┗━━━┛┃
      ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
     「いわれると思ったよ」
     「なんだ、つまんないの」
わかってはいるんだ                           そ
わがままな願いだっていうことも                     う
                                    か
君が 誰かのために生きてゆくことができなかった理由も
                                  ダ も
なにもかも 初めからわかっていたことなのに             メ う
でも その場にいあわせてみると                   に な
なんて僕は無力なんだろう って                   な に
                                  っ も
そればっかり そればかり                      て か
考えて もう                            し も
                                  ま
もうなにもかもダメになりそうで                   っ
もうなにもかもダメになってしまって                 た
                                  の
                                  か
                                   。
読んでいてくれてるよね?
これを、読んでくれたよね?
                                   僕は十分
                             それだけで十分だから
                                 このあたりで
                              すべてのファイルを
そして自らを                     システムごと終了させます
            「それじゃぁ 元気で」
      ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
      ┃ !   システムを、いま、終了しても      ┃
      ┃     よろしいですか?            ┃
      ┃                         ┃
      ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
                                   fin.

ありがとう

引っ越しの準備をしていたら
机のひきだしの奥から
君にもらった時計が出てきた
電池が切れてたみたいで
秒針は動いてなかったけど
竜頭を逆回しにしながら
君のこと考えてた
もうすぐ結婚するって聞いたけど
どうなったんだろう
電池を入れ換えてつかうには
重さが少し気になるけど
そのうちそんなことも気にならずに
腕にはめていられるように
なるんだろうか

補完

アルバムを開けると
そこに笑っているのはひとりめの僕
僕が知らない過去を持つ
僕と同じ 顔をした人
先月 線路に飛び込まなければ
僕が ここにくることはなかったのに
誰かの代わりになんかならなくてもよかったのに
ひとりめの僕は 父さんからも母さんからも
十分すぎるくらいの愛情をもらってたって
少し右あがりの文字でノートに書いてあった
そしてそれがとても負担になっていたことも
ふたりめの僕は 笑うことも逆らうことも
まして自分の夢を持つこともままならず
父さんと母さんの願ってたとおりの人生を
歩いていかなきゃいけない
僕は少しだけ僕を恨むよ
僕は少しだけ僕をうらやむよ
ガラス越しのひとりめの僕は
たくさんのチューブにぶら下がって
まるでこれじゃあやつり人形
がんじがらめの僕と
きっとそんなに変わんないんだろうな
「バックアップデータの復旧の準備ができました」
必要な記憶をひとりめの僕からもらったら
また 無味乾燥な日々が始まる

ライナス

そして今日も僕は疲れた体をはうようにして部屋に入る
部屋のすみにくしゃくしゃになった毛布を
自分の肩にかけて床の上 何も映らないテレビを見る
あの日外した電話の線は今日もつながることなく
成り行きで持つことになった携帯電話も結局
一度も使うことなく契約は解除してしまった
君が悪いわけじゃない
僕は異常なんかじゃない
部屋から差し込む月の光で光合成をすることは可能だろうか?
真っ暗なままの部屋の中で
僕が今ここにいることを確認したあと
僕がすべきことはいったい何だろう
目を閉じたが最後 僕がこのまま命を閉じてしまっても
そのことに気がつく人は何人もいないはずで
誰かから受け取るはずのぬくもりは
すりきれた毛布からもらうだけになってしまった
薄れてゆく意識を振りきるように
「逃げちゃだめだ」を反芻して
もう何時間かうつらうつらとしたら
また 仕事に行かなくちゃ

終わるときはいつも

あんなにも しっかりと 握っていた 手のひらも
今はもう つなぎ止めておく 力もなくて
少しずつ 少しずつ 離れてゆく ちぎれてゆく
君は 前を むいたまま 歩いてゆく
僕は 何もできずに ただひとり ぼうぜんと

風の強い海岸から

夏を過ぎた海岸は風が強くて少し寒くて
それでもあなたとここに来たうれしさだけで
波打ち際まで走っていけた
スニーカーに染み込んでくる波のことなんか
気にも止めないで あなたとはしゃぐ瞬間だけが
永遠に続けばいいと そうでなくてもせめて
もう5分だけ続いてくれたらいいな
なんて思ったりもした
あたし達 こんなに遠くまで来たんだね

思考、錯誤。

 
 い   ひ
 っ き と          降りるあてもない カンジョウセン
 て み こ
 ほ で と       5周目
 し よ で
 か か い               ぐるぐる
 っ っ い                      ぐるぐる
 た た
   
   っ
   て                  と
枚数が足りないからって              よ ぼ
僕がもらったのは                 く く
色あせかかった感熱紙               わ は
ばかばかしくて コピーする気にもなれない     か こ
                         ら こ
                         な に
                         い い
あと二駅で6周目                 の て
                         で も
         ぐるぐる            す い
                           い
   ぐるぐる                    の
                           か
            流れる景色は たあいもなく
             目の前で はしゃぐ 子供
              たのしそうで 危なそうで
     イマココデ アヤメタラ ドンナニカ タノシイダロウ イマココデ ギャクサツデキタラ ドンナニカ
                                   そ
は               さ                  う
な               っ                  や
し               き                  っ
た  どんなふうに見てる    か                  て
い               ら                  す
こ               そ  どんなふうに見える       ぐ
と               ら                  だ
が               ば                  ま
あ               か                  る
っ               り                  ん
て               み                  だ
も ことばをのみこんで     て
          お     る   (すぐにめをそらしちゃうんだね)
          お
          き
          く
          い                    僕は 誰だ
            き
  僕は        を
  いったい      す          ぼくがなにかしたのかも
  何者なんだい?   い
           こ
          ん            ほんとうのことをお
         で                     し
な                              え  ぼ
ん                              て  く
て    誰かに 粉々に 壊されてしまったほうが        く  は
い                              だ  き
え    まだ よかったのかもしれない             さ  ら
ば                              い  わ
い                                 れ
い                                 て
のかな なんていえばよかったのかな                 る
                                  の
                                  か
                                  な
          宿題 ながめ  読みかけの小説
            ぱらぱらと  もてあそびつつ
               それでも    シセンは
           窓の外を──────
       ───電車はたった今6周目の旅に入りました───
                   も
                   う
                   や
                   だ
                    。
          大声で叫ぶわけにもいかず
             まして誰かに話しかけることも
           ままならない 僕にとっては
                            このまま 未来永劫
           ぐるぐる
                            ぐるぐる
      ぐるぐる           ぐるぐる
                              ぐるぐる
     ぐるぐる
                    ぐるぐる        と

『1990』

あの時 君と僕は電車を待ってたんだ
二人で 首をうなだれて みじめな顔をして
それが何を意味しているかなんて
関係なかったんだ たぶんね
彼女が君を選んだことも
僕のことは始めから気にも止めてなかったことも
わかってたはずなんだ
どうして 君がそんな顔をしなきゃいけないんだろう
本当は 僕がそんな顔をしなきゃいけないんじゃないか?
さっきから 君は一度も顔を見せてくれないんだ
とうにくれてしまった空が あんまり明るくて
きっとこのままだと 雪が降るんだね
こんな気持ちのまま 僕たちは離れていってしまうんだね
風が強く吹くたびに君は髪をかき上げる
肩のカバンがずり落ちてくるたびに僕は君を
僕は、君を、見ていたのに。
ほんの少し甲高い音を立てて
蒼いラインのはいった電車がはいってくる
滑り込むようにとはよくいったものだなぁと感心する
風が前髪を煽る
電車が寸分たがわず停車位置に止まろうとした瞬間
「こんなこと 誰も 望んでなかったのに」
ブレーキの音にかき消されるように、
君の声が聞こえた、ような、気がした。

空想癖

わらっちゃう                                                そ
僕がここにいなくても                    ん
世の中は静々と動いている                  な
                              風
線路に飛び込む人                      に
ビルの屋上から飛び降りる人                 笑
少女をイスにくくりつけては                 わ
       手足をひとつずつ         な
           落とし      い
て     で


そして僕は の
ここで 一人 が
途方に暮れる 好



                             さ 
いまここで 発狂しても僕は                え
僕の代わりになる誰かにすべてを託すことなく        も
すべてを託す暇もなく                   平

                          を
「こういうとき、どんな顔をしていいか わからないの」 装

目の前にいる君に聞いてみようか
僕は君を君が僕を信用しているのと同じくらいに信用しているわけじゃないように
君は僕を僕が君を好きだと思っているのと同じくらい好きだと思っているわけじゃない

たぶん、君の答えは決まっている
そしてそれは 僕の考えている以上の

感情はいつまでたっても稀薄で
愛情はそこはかとなく

適度に混んだ電車の中で
君は僕に愛を注ぎ込む
僕は君に生きてゆく支えを求める

そしてそれはすべてが虚構の世界へとなだれ込み
僕が洗いたての木綿のシーツの上で学校に行きたくないと思っては
どうしたら一番正当な理由で合法的に学校をさぼれるか考えた末の
くだらない(いや、本当にどうしようもなくくだらない)空想上の出来事

...だったらいいなぁ、と き
                                  み
電車のシートに座り                         は
つり革につかまっている君を盗み見るように              だ
そっと                               れ
                                  ?
   そーっと
                                  僕
       見つめているときに                  の
                                  知って
                見ていた夢だったんだ          い
そうなんだ                               る
     たぶん                            誰
        たぶんね                        か
                                    で
だんだん                                す
だんだん                                か
意識レベルが低下してきて                        ?
レム睡眠からノンレム睡眠へ
覚醒から幻覚へと向かう途中で僕はまた

きみを                               ダレヲ?


                 僕の一番大好きな君を
ソレハ ダレナノ?
少しずつ
   すこし  ずつ