2002年12月アーカイブ

2002年12月31日

会話

あなたがきゅうに
しにゆくろうじんのめをして
「ほんとうにずるいよなぁ」
などというので
わたしはなにもいうことができずに
わらうふりをして
ためいきをつくしかないのです

ほんとうにあなたがいなくなるまえに
わたしがじぶんのことをはなすひは
やってくるのだろうかと
そんなことをかんがえました

ほんとうにずるいのは
なにもいえないわたしのほうですか
はぐらかそうとするあなたのほうですか
「そうだね ずるいよね」
わたしもそうかえしておきました

発声練習

演劇部の発声練習から逃げるようにして給水塔の裏
街がいちばんよく見える場所に二人しゃがんだり黙ったり
良くない噂ばかり耳にする君の
助けてと叫ぶ声が聞こえてきそうで
今日も後を追いかけてきたのです

君はなにかあるとすぐに僕のいる教室の前を通りすぎる

何を話すでもなく何を聞くでもなく
僕たちは陰る日の消えてゆくさまをただただ焦点も合わさず
少しは気の利いたセリフなんかも出てくればいいのにと
他人事モードで自分を責めてみたり
君はといえばくちびるの裏側を強めに噛んで
涙のかわりに僕の右手をぎゅう、と握りしめるのです

(あ・え・い・う・え・お・あ・お・あ・え・い・う・え・お・あ・お)
(あ め ん ぼ あ か い な あ い う え お)

鼻をすすっては握りなおす手の力の加減が
僕に悲しみを半分だけ振り分けようとしているのでしょう
「僕たち、いつも一人でいるけど、一人ぼっちじゃないよねぇ」
なんとなくいってみたら君はうんとうなずくとそのまま泣き出してしまいました

(「水馬赤いなあいうえお」『あいうえおの歌/北原白秋』より引用)