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1996年9月 6日

夏の終わり

夕暮れの街
長距離バスのターミナル
やっと逢えたと思ったのに
もう帰ってしまう君を見送る

夏休みも終わりに近いせいか
いつもより人は多くて
君の小さな声は僕の耳まで届かない

  「ごめんね」

君はそういったらしいけど
うまく聞こえなかったことにしよう
最後の言葉を聞くには
まだココロの準備ができていないから

  そういえば 遊園地で食べたアイスクリームは
  ちっとも 甘くなかったね

  ここまで歩いてくるのに
  ずっとうつむいて黙ってるのもさ
  初めてだったよね こんなこと

  ついたら電話してね
  あ、でも、電話代かかるから無理しなくていいよ

  こんどはさ


ゆっくりと低い音を立ててバスがターミナルに入ってくる
気持ち悪いくらいの排気ガスが体にまとわりついて
ほかの乗客におされてふりかえる余裕すらない

  「守れそうにないから
   約束はしないでおこうよ」

君が言い残した言葉の意味を考えてみる
きっとそういうことなんだろうけど
いまの僕はそう思いたくなくて
ごめんね たぶん君のことが好きだったんだ
言えなかった言葉を飲み込んだ

気持ちを引きずったバスが発車する
これが最後なんだろうと言い聞かせる
本当はむりやりにでもさらってしまえば
いいのかも知れないけど

それもできそうにはないから
せめて僕は泣かないようにするよ