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2014年1月23日

みせいねん

昼休み。学校の隅っこ、まあどう考えたってここまで来るヤツなんかいないだろってところに僕たちはいる。タイキは「お前黙っとけよ」って言って真横でタバコ吸ってる。
けむいのが嫌いだから本当はやめてほしいんだけどなあ。だいいちバレたら謹慎くらいじゃすまないじゃん。全国大会行くような部活のヤツがさ。
そんなふうにぶーたれる僕にタイキはしゃーねーな、ってタバコを消す。跡は残さないようにしてる。
「純真無垢なフリなんか疲れんだよ」
そんな言い訳に僕は鼻で笑う。ま、わからんでもないけどな。どっかのクソガキにできもしねえ自分の夢だのなんだのしょわせんだもんな。やってらんないわな。

タイキは間が持たないのか、二本目に火をつける。
煙が僕のほうに流れてくる。けむいっつーの。
「勃たなくなっても知らねえぞ」
目が合う。笑う。頭を殴られる。痛えよ。僕たちはゲラゲラ笑った。バカだよなあ。
「お前さ、全ッ然興味ないのに言い寄られてみろ。軽く死ねるぞ。別にお前なんかとつきあう気なんかねーっつうの」
笑う。まだ笑う。

タイキはそれでも間が持たないのか、くちびるを重ねてきた。ヤニ臭いキスなんかしたくないんだけど。
「好きなヤツとなら嫌な味しないって言ったのはお前だろ」
ちょっと怒ったところとか、まあ、かわいい。こんな顔はたぶん僕しか知らない。たぶん。
繰り返す接触。何度も、何度も。それ以上はここじゃできないから、気がすむまでお互いの感触を味わう。タイキのくちびるは最近ガサガサしてる。リップクリーム嫌いとかいってたもんな。

目が合ったら恥ずかしくなって、元の姿勢に戻る。タバコにはもう火がついてない。
「バレたらどーすんの?」
なんとなく聞いてみる。返事はない。いつものことだ。ずるいっちゃずるい。人のせいにすんなよ。そう言っても忘れるだろうけど。
僕はタイキの手を握る。少し力を入れて握りかえしてきた。
「好き?」
「察しろ」
素直に言えバカ。みぞおちにグーパンチ。 むせるタイキ。瞬間、ヘッドロック。痛いって。
「お前どうなんだよ」
「察しろ」
「死ね」
「前に手首切ったら本気で泣いたくせに」
素直じゃないのはどっちだ。

夜。タイキの部屋。
ぱしゅーって派手な音を立てて缶をあける。風呂上がりはこれだよな。
「お前も人のこと言えねえじゃん」
聞こえないフリで一気飲み。ぷはあ、ってわざと声をあげる。
「ノンアルコールだからいいんだよ、水じゃん」
まあ、いつもは違うけど。
そう言うと「お前おっさんかよ」って缶を横取りされる。
んだよ、残ってないじゃん。
タイキはしかたなさそうにもう一缶あけた。俺が変な道にひきこんだかね。
初めて会ったときは僕はそれはそれは真面目そうに見えたらしい。僕は僕でタイキみたいなガタイのいいヤツは苦手だったし、実際ちょっと怖かったし。だけど僕は頭おかしいし、時々血を見たりする。タイキは運動部のレギュラーのくせに酒とタバコは常習だ。どっちかの家でだらだらするのがやめられなくて、ときどきエロいこともする。今だって、まあ、ヤった、後だ。

口で受けとれるかなと思って柿ピーを投げる。それる。サッと手が出て取られる。それ、僕んだからな。僕はちょっとほおをふくらませる。こんなことしても効果なんかない。あるわけない。タイキは手に持った柿ピーを口に入れて、別のを僕の口に押しこんだ。で、残りを個袋からそのままざらざらと口の中に流しこんだ。僕が買ってきたんだって、それは。
「こんなの先生見たら卒倒もんだよな」
ほとんど残ってない袋を僕に押しつける。いいよもう一袋開けるから。

タイキは退屈になったのか、プレステの電源を入れて、格闘ゲームを始めた。
「僕もやりたい」
「お前弱えじゃん」
んだと。僕は柿ピーを口にくわえて対戦を仕掛けた。
全然ダメなのはわかってる。でも意地になって技をかける。

↓↘︎→↓↘︎→P

コンボが、
決まっ、
た?

「っしゃー!」

何回も対戦をしたけど、勝ったのは一回だけだった。あんまりしつこいからたぶんタイキはあきれてると思う。
「お前ストレスたまってんだろ」
「真面目なフリだっていろいろめんどくさいんだよ。早く歳とって死にたいくらいなのに」
さっき決まったコンボが決まらない。ダメだなあ。僕はいつもまぐれだけでなんとかしてる。こんなこともきっといつかはできなくなる。
手が止まる。
「どした?」
「別に他に行っちゃっていいよ」
タイキは聞こえないフリで技をかけてきた。

(初出:投稿サイト CRUNCH MAGAZINE)