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2014年3月22日

ready,set,go!

 運動会なんて本当はなくなったっていいと思っている。っていうか今日だってサボりたくてしかたなかったんだけど。
 何一つまともにできなくていつも隅っこでくすぶっているだけの自分にとって、運動会とか球技大会なんてクラスの連中に迷惑をかけるだけの行事だったから、いやでいやでしようがないのだ。ぎりぎりまでなんとかして回避することはできないかと思っていたんだけど。
「これだったら遅くてもナントかなるっしょ。とりあえずでかい声さえ出せばあとはこっちでなんとかするからさ」
 とかなんとか言いくるめられて借り物競争に出ることになってしまった。

 もういい歳なんだからこんなことで熱くなってもなあって、思うじゃん?
 でも、いざ始まると熱くなるんだよなあ。100m走で意地になるのも、棒倒しでとりあえずしらないやつに蹴り入れるのも、のん気に玉入れなんかやっちゃうのも、こんなことしか楽しみがないんだよなあ、進学校、みたいな感じで。
 競技が進んで、集合時間になる。
「時間だろ、適当にやって来いよ」
 僕をうまく言いくるめたフジイが呼びに来る。ほっといてくれればいいのに。僕は不思議だよなあとか思いながら集合場所へ。

 ......知らなかったんだけど、これ、意外と目立つやつが出る競技だったんだ。自分以外はどいつもこいつも目立つ感じのヤツで、組み分けした中でも応援団ががっちりバックアップしてますって感じじゃん。こんなのに出て大失敗だったんじゃないか。
 流されるように入場。ガッツポーズでアピールとかマジかよ。
「タカギー! カード拾ったら声出せ声ー!」
 フジイが僕を見て手をぶんぶん振りまわして叫んでる。困った僕は眉毛をハの字にして右手を挙げて返事した。
 組対抗のスコアはわりと接戦で、これ落としたら実はけっこうヤバいんじゃないかって今ごろになって思ってるんだけど
「タカギー! 今日の打ち上げはお前にかかってるぞー!」
 担任がめっちゃはしゃいで僕に声を掛けてきた。マジですか。ダメだったらなに、僕が悪者になるのか。それはそれでいいけど、でも今のタイミングじゃないよなあ。だんだん気が重くなってきた。

 一組目。スタート。カードを拾って、叫ぶ。「野球部ー!」「吹部いるー?」人だのものだのを確保したら、残り半周は平均台とハードルと。
 二組目。スタート。「B型いるかB型!!」「中学の時に運動部だったヤツ!!」叫んで走って自分の組まで行ったら、応援団から渡されるみたいな感じ。いや、これ無理だろ。どう考えても。声大きくないし、足遅いし。

 重い気分のまま自分の番。

 号砲が鳴り、走り出す。一瞬だけフライング気味に飛び出す。騒ぐクラス。転びそうになりながら封筒を拾い、中を見る。
 なんだこれ!
「なにー? 中身なんて書いてある??」
 大声で叫ぶより先にチームまで走る。こんなの言えるわけないでしょーが。根性で走って顔が赤いのをごまかす。
 カードを見ようと伸ばしているフジイの手を取る。
「俺?」
「いいから来て」
「なにが出たんだよ」
「いいから」
「わかんなきゃ行けないだろ」
「それ以上なにも聞くな」
 観念して走りながらカードを見せた。フジイは吹き出した。うっせえよ。
 と。突然抱えられる。
「無茶だろそれ!」
「この方が早い!」
 突然のことに場内は大騒ぎ。平均台とハードルは降ろされたけど、そのかわり腕がちぎれるかと思うくらいにひっぱられた。
 大歓声の中、奇跡の一位ゴール。クラスの連中は先生も一緒になって万歳三唱してた。
 僕は。今までになかったくらいに走ったり抱えられたりひっぱられたりで、ぜーぜーいいながらグラウンドにひっくり返っていた。引きずられるように順位の列に。背中の土を払ってもらいながら僕はやっと、息を落ちつかせた。フジイは僕をずっと見ている。なに?
「あれ、あいつらになんて説明するんだ」
「クラス一のイケメンでいいんじゃない?」
「やめろ恥ずかしい」
 うん、まあ、なんて書いてあったかは誰にも内緒で、いいんじゃないかな。