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2015年1月16日

フリーワンライ企画「世界五分前仮説」

1/16 フリーワンライ企画参加作品です。一気書きノー推敲。以下本文が続きます。よろしく。

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あのとき感じた違和感は嘘じゃなかったんだ。

学校帰り、スクランブル交差点が青になる瞬間に、なにかがわかった気がした。
もう何年も、何十年も続いてきたと思っていたこの世界は、違和感を感じたあのときの、ほんの少し前にできたものだったんだ。

ケンカをする弟たちも、不安定な遠くの国も、毎日のように見かけるヘイトスピーチも退屈な授業もいやになる小言も、君への気持ちも。少しずつそうなったわけではなくて、このままの形でほんの少し前に出来たものだったんだ。ぽこん、て。タマゴがにわとりから出てくるように。

駅から来る、駅へ向かう自動車の流れが止まって、反対側の信号が青になる。すし詰めのバス、宅配便のトラック、子どもを乗せた軽自動車、古びたスクーター、二人乗りの自転車、信号待ちの人、人、人。
僕が見える僕の目の前に広がる世界。ここに生まれ、育った僕。

ではなく、僕がいて、僕が意識する、僕が作った世界。僕の意識が作り上げた世界。
肩を叩かれ、振り向き、意地悪く笑う君、なんだよう、と拗ねて見せる僕、むくれた唇、君が好きだという気持ち、言えないでしまっておいたはずの、気持ち。これもすべてずっとあったものじゃなかったんだ。なんだ。そうなんだ。嘘なんじゃないか。
ならば。

その逆は成り立たないのか。
今から5分念じて、自分の好きなように念じて、生まれた世界はすべて完璧な自分の思ったとおりの世界になるんじゃないのか。なればいいのに。
僕を好きな君、君を好きな僕、一人じゃない僕、誰かに必要とされる、朝、登校するときも、昼、ごはんを食べるときも、夕方、寄り道をしてハンバーガーショップでなにかを食べたりレコード屋で中古をあさって本屋でマンガを立ち読みして、それをネタに話をしたりじゃれたりして、みんなと同じようにできるはずだったあらゆることを経験して。
そしたら今みたいな人見知りもしない、孤独とは仲の悪い自分が上書きされて、SNSで裸を晒すこともない、そうしないと寂しくてしかたない、なんてこともなくなったかもしれない。かもしれない。

わからない。どうなったのか。どうしてこうなったのか。僕はいま生きているのかも。

四方すべての車の動きが止まる。さん、にい、いち、ぜろ。
のん気な電子音が流れ、人が横断を始める。西へ、東へ。駅へ、街へ。大事な誰かのところへ行って、行きたくないところに行くのかもしれない、それぞれが思うそれぞれのところへ。
向こうから小学生の時の同級生がやってくる。仮説が本当なら、あいつはそういう設定だ。僕に気づかずにまっすぐに来る。僕はよけようとして半歩右にずれる。同級生も。顔がこちらに向いて、僕だと気づいて、すぐに嫌な顔になって、吐き捨てるように、僕にだけ聞こえるように言うのだ。
「死ねよ」
これは僕の中の話だ。本当にそう思うなら、お前が思う、僕のいない世界を作ればいい。
僕はお前を殺してでも生きていかなくちゃいけない。僕が作った、ほんの少し前に出来たこの世界で。なにかあったからじゃない。そういう設定なんだとわかっているからだ。


僕が なにかを しかけるまえに
向こうからなにかが飛んできて
痛い ちがう 大きくなにかが崩れる
あったはずの すべてがなくなっている
足許のアスファルトも
信号の電子音も



これは僕の世界じゃないということなのだろうか。目の前が真っ暗になって深く深く落ちていくようだ。どこまで行くのかはわからない。ただ



1月xx日夕方、xx駅前の交差点で市内の私立高校に通う学生が何者かに刺され意識不明の重体。警察は殺人未遂事件と見て犯人の行方を追っている。現場は車通りの多い繁華街。周囲には多数の歩行者がいたが、目撃者はほとんどいないという。
目撃情報があれば、すぐに知らせてほしい、とのこと。次のニュース----