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2015年4月 5日

フリーワンライ企画「forgiveness」

ひとりだとは誰にも言えないので
頭のなかの友だちを何人も呼んで
公園で遊ぶ 図書館で過ごす
学校でお昼を食べる 誰かの家に行く
笑う けんかする 泣く なかなおり
矛盾しないように わすれないように
ノートに書きだす
頭のなかの友だちのこと
名前 性格 すきなもの きらいなもの
どこに住んでいるとか お父さんの仕事とか
いつしか自分が本当にいるのか どこにいるのか
わからなくなる
消しゴムで消してしまえばきっとなくなる
それくらいの危うい存在
きっとすぐに忘れるでしょう
もともといないことにされているのだから
物語よりも淡い自分のこと

  ひとりごとばかりで誰かといるような気配もなく
  教室の隅 黙々とノートになにか書いている
  小説家になりたいのか そうでもしないと気が狂いそうになるのか
  どちらにしても 誰も近寄ろうとはしない 得体の知れないなにか
  手を出せば 口を出せば 関わってしまえば
  痛い目にあうのは自分になることをみなが知っている
  だから
  距離は遠くなる 視線は避ける 視界から消す なかったことにする
  悪いことだとはわかっていても
  自分と自分のこの世界を守るために

ノートからあふれ出した彼らはいつしか自分の世界を覆って
ひとりでいることも平気になってしまう
(いいえ、彼らがいるからひとりではないのです
たとえ誰かの言葉で壊れてしまうほど もろい世界の話だとしても
どちらにいることが正しいことか 決めるのは自分だと思うから
存在しなくてもいいほうの世界からは消えることだってできる
今だってほら